グローバルに進む少子化 ―カギはアフリカ?(【連載】「静かなる有事」3)

連載の初回(続く80万人割れ ―忍び寄る少子高齢化社会)では、出生数が80万人を切り、さらに少子高齢化が進む日本の現状を見渡しました。前回(広がる非婚化・晩婚化)では、少子化の原因の一つである非婚化・晩婚化について考えました。

連載の3回目では、日本から一旦離れ、世界に目を向けてみます。

まず、世界人口の推移と歴史について簡単に振り返ります。人類はいくつかの困難を経ながら、基本的には人口増加の一途を辿ってきました。700万年前から旧石器時代までの時期は、スローペースな人口増加でした。当時の全世界の人口は数十万人程度で推移し、8000年もの時間をかけ徐々に増えていきました。旧石器時代の到来は、一気にそのペースを速め、西暦1年には全人口が2億5000万人になるまでになりました。

そして、人類の増加に最も大きな影響を及ぼしたのが、産業革命でした。さらに、農業生産性の向上によって、大量の食糧が確保できるようになり、多くの人口を支えることが可能になりました。産業革命の始まりである1750年に7億3000万人だったのが、1950年には25億人へと、わずか200年で3倍以上に膨れ上がりました。

出典:農林水産省関東農政局

現在の人口はどのくらいでしょうか。2022年に国連は、世界人口が80億人に達したと発表しました。20世紀の人口増加は、中国やインドといったアジアの国々が牽引してきました。今やインドの人口は中国を抜き14億人を超えたとされています。統計の上では、世界の3人に1人はインド人か中国人ということになります。

それでは、今後どのようになっていくのでしょうか。国連の人口推計によれば、このまま人口増が進み2058年には100億人に達して、2100年まではその規模を維持するとの見方が示されています。ただし、この数値はいくつかのシミュレーションのうち真ん中(中位)の水準を表したものです。

「世界人口は2064年の97億人をピークに減少に転じる」。米ワシントン大は、20年にこのような予測を発表しました。今後の数十年で、人口増加を引っ張ってきた中国で急激な少子高齢化が進行し、さらに先進国でも出生率が軒並み下がりだす見込みです。その一方で、ナイジェリア、コンゴ、エジプトなどアフリカ大陸の国々は引き続き人口増加を続ける模様です。今後、世界人口のカギを握るのはアフリカと言っても過言ではありません。

出典:日本経済新聞「経済成長・高齢化・移民… チャートで見る人口減の世界」

先進国は、人口減少に対処するためにさまざまな方策を打ってきました。ただ、少子化問題は一朝一夕に解決できるものではなく、長い時間を要します。フランスは少子化対策で有名ですが、その始まりは1870年の普仏戦争まで遡ります。ドイツに敗北した苦い経験から人口増を目指し、結婚して子供を産むという家族観そのものを変化させてきました。その結果、2019年には生まれた子供の6割が婚外子となっています。

アジアの中でも韓国の少子高齢化は深刻です。先週、23年の合計特殊出生率が0.72と発表されました。日本の1.26すら大きく下回っています。韓国政府は、06年から少子化対策に力を入れ、日本円で計30兆円余りを子育て支援などの関連予算に注ぎ込んできました。しかし、現状では目立った効果があったとは言えないでしょう。出生率向上には、文化や社会の価値観など人々の考え方も変化させる必要があるのです。

 

【連載】「静かなる有事」

出生数80万人割れが二年連続で続いた日本。少子高齢化への警鐘が乱打されてきたのになぜ解決しないのか。第3回の今回は、世界に目を向けて人口減少を考えました。次回は、これまでに日本で行われてきた少子化対策を振り返ります。

 

29日付朝日新聞朝刊(東京14版)総合面「韓国、出生率0.72 住宅高騰・学歴社会、「生きづらさ」重なる日本」

29日付読売新聞朝刊(東京14版)総合面「韓国出生率0.72 最低更新」

29日付日本経済新聞朝刊(東京14版)総合面「韓国の昨年出生率、最低の0.72 将来不安・育児負担重く」

 

参考文献

The Lancet: World population likely to shrink after mid-century, forecasting major shifts in global population and economic power

United Nations World Population Prospects 2022

日本経済新聞社編「人口と世界」2023年、日経BP 日本経済新聞出版