草の根は大きなムーブメントへ 日本の「教育改革」の行方は

「こんなに素敵な先生が身近にいたんだ」

目を輝かせ200人を前に希望を語る保護者。彼女が来場したのは、18日、名古屋で保護者らが中心となって開催した「オモロー授業発表会」だ。教育関係者、学生、子どもたちが一堂に集まり、公立学校教員らの授業実践のプレゼンを聞いて感想を共有する。大阪から始まった取り組みだが、今や全国28ヶ所へと広がりを見せ、今後も様々な顔ぶれが登壇する予定だ。

会終了後には、至る所で名刺交換が始まる。知能検査や学力検査では測定できない「非認知能力」を高めるコーチング事業、教育現場をより良くするために教員の声を集めるスクールボイスプロジェクト、対話しながら生徒主体の学校を作るルールメイキングプロジェクト、教員の生き方を豊かにするための研修……実にさまざまな方面からのアプローチが見られた。愛情あふれる教員の実践を見て、会場を包む「教育を良い方向に変えよう」という熱気を感じ、同志と繋がり、まだまだ公立学校も捨てたものではないと前を向いた人は少なくない。

▲2月18日「オモロー授業発表会」名古屋終了後の様子。200名の定員も前年末のうちに予約でいっぱいに。登壇者もスタッフもボランティアで、誰もが聴講できる。会場費は当日のドネーションでまかなった。

人が足りない。仕事量が多すぎる。休みが少ない……現場の教員だけで変えられることは限られている。23日の大阪の発表では、「できないことを嘆くのではなく、できることに目を向けて改善していく」という姿勢が目立った。今ある資源を最大限生かして、子どものためになる教育を実現するために、学び、実践する。彼らの姿はあまりにも眩しい。

草の根的に、でも確実に起こり始めるムーブメントに光明を見る一方で、今朝の新聞はやはり影にもフォーカスする。

 

「代役」教員 研修機会少なく (26日付 朝日新聞朝刊 教育面)

臨時任用教員は正規に比べ研修が手薄い。筆算の仕方を忘れてしまい、割り算の「あまり」を電卓で導いてプリントを作ろうとした人を例にとっていた。年度末にかけて深刻化する教員不足。人材を選ぶ余裕のなさ。教育研究家の妹尾昌俊さんは「義務教育の質の保障が危機にある状況」と指摘する。

 

日本では最近、教育費がかさむことを課金ゲームになぞらえる。……(中略)……(塾、講習への課金を)惜しんだばかりに子の一生を台無しにしたら――。不安と恐怖が親をゲームに駆り立てる。心はわかる。だが、その先に待ついい学校、いい教育って何なのだろう。(26日付 日本経済新聞朝刊 一面 「春秋」)

「いい学校とは?」と聞かれると、フィンランドでは決まって「家からいちばん近い学校」と帰ってくるそうだ。授業が少ない、宿題もない、競わせない。それでもどの学校も同じくらい、高いレベルの学力を担保できているからだ。この国は、日本より一人当たりのGDPが高く、経済格差は小さい。少ない人口で競争力を維持するため教育に力を入れてきた結果との見方もある。

 

先週、日経平均株価が34年ぶりに市場最高値を記録した。実感は、まったくない。…(中略)…多くの人にとって物価は上がれど実入りは増えず、チラシで見る1億円は遠いままだ。一方で、億ションは売れ続けている。この状況、やはりいびつである。

今朝の朝日新聞。一面の天声人語は鋭い筆致で日本経済の現状を記す。就任当初の岸田首相は格差是正をめざし分配重視に見えたが、いま格差は最高レベルだという。

再分配というと、「稼げなかった人」に「稼げた人」の財を分配するという発想になりがちだが、それでは解決が遅い。もっと早い段階から全ての人が「稼げる人」「力を発揮できる人」に。すなわち「生きる力」を備えれば、誰もが幸せに、自分らしい人生を切り開いていくことも不可能ではないはずだ。「誰一人取り残さない社会」にするためには、一人ひとりの力を最大限生かすことが必要不可欠だ。

教育をより良くしよう、教育から社会を変えよう。そんな熱い思いをエネルギーに行動する人は、少しずつかもしれないが着実に増えている。暗いイメージを持たれがちな現場も、少しずつ対話を重ね新しい価値観を取り入れることで、変わり始めている。

ならば彼らを支える仕組みも、もう少し何とかならないか。前を向き懸命に動こうとする人々にさらなる燃料を提供するのか、それとも一顧だにせず水を浴びせるのか。政治だからこそ、政治にしかできないこともある。まずはもっと踏み込んで目を向けてほしい。彼らの熱に触れてほしい。そして共に「いい教育」を考え続け、未来を明るく照らしてほしい。

 

関連記事:

26日付 朝日新聞朝刊(愛知13版)22面(教育)「『代役』教員 研修機会少なく」

26日付 朝日新聞朝刊(愛知14版)1面 「天声人語」

26日付 日本経済新聞朝刊(愛知12版)1面 「春秋」