◯NYタイムズ、オープンAIを提訴
昨年12月27日、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が、対話型生成AI「ChatGPT」を手掛ける米オープンAIと同社に出資する米マイクロソフトを提訴しました。同紙は、多数の記事が無断でAIの学習に使用されており、著作権侵害にあたると主張しています。
この主張が事実であれば、オープンAIはNYTが多大なコストをかけて集めた情報を、正当な対価を支払うことなく利用したことになります。
オープンAIは、記事の使用は「フェアユース(公正利用)」であり著作権侵害にはあたらないと反論しており、訴訟の行方が注目されます。
◯ネットニュースの台頭
日本のニュース事情はどうでしょうか。
日本新聞協会によると、2000年代には約5000万部あった新聞の発行部数は、23年には約2860万部とほぼ半減しました。雑誌も苦境に立たされており、昨年5月には、101年の歴史を持つ「週刊朝日」が休刊となりました。
近年、スマートフォンやインターネットの普及に伴って、「ヤフーニュース」や「スマートニュース」などの無料のニュースポータルが既存のメディアに代わる情報源として台頭してきました。
ヤフーなどのニュースポータル事業者がページ閲覧数(PV)に応じて得た広告収入をもとに、記事を提供するメディア各社に記事使用料を支払う仕組みになっており、利用者は多くのニュースに無料でアクセスすることができます。
ただ、記事使用料が十分でないとの指摘もあり、公正取引委員会が昨年9月に公表した報告書でも、約6割のメディアが不満をもっていることが明らかにされています。
◯情報は「タダ」じゃない
ここで、私たちが普段どのように情報を入手しているか振り返ってみましょう。
新聞や雑誌を購読していますか?有料のwebメディアを利用していますか?
対価を払って情報を得ている人はそう多くはないのではないでしょうか。
全国紙の購読料は月額4000〜5000円ほど。この金額を考えると無料のニュースサイトは魅力的に映るかもしれません。
しかし、取材には記者の人件費や交通費、通信費など莫大なコストがかかります。昨年10月に筆者がジャパンモビリティショー(JMS)の取材をした際も、飛行機代やホテル代として約4万円かかりました。
新聞の購読料は、それだけの経費をかけて取材をしている証ともいえるでしょう。
店頭で商品の代金を支払うように、情報にも対価を支払うのは当然のことだといえるのではないでしょうか。
もちろん、上述したビジネスモデルを踏まえると、ヤフーニュースなどの無料ニュースサイトの利用が正当な行為であることは言うまでもありません。
しかし、費用負担なしで情報が手に入るという認識が浸透することで、メディアの収入が減少し、ジャーナリズムの基盤が揺らいでしまうことを筆者は危惧しています。
本来、情報は「タダ」で入手できるものではありません。このことを改めて認識し、情報に対価を払う習慣を身につけるべきではないでしょうか。
参考記事:
1月10日付 読売新聞朝刊(東京)10面(B経)「オープンAI 提訴に反論 NYタイムズへ 記事で学習「公正利用」」
2023年12月29日付 読売新聞朝刊(東京)1面「生成AI 記事利用議論も NYタイムズ提訴「ただ乗り」」
2023年11月1日付 朝日新聞朝刊7面(経済総)「(けいざい+)ヤフーとメディア:下 ルールはすべてPF「我々は傭兵」」
2023年10月31日付 朝日新聞朝刊6面(経済総)「(けいざい+)ヤフーとメディア:上 消えた特定のヤフコメ欄、説明なし」
2023年9月22日付 朝日新聞朝刊1面(総合)「ヤフー、優越的地位の可能性 対メディア、記事の使用料 著しい低価格なら「独禁法上、問題」公取委指摘」
2023年5月28日付 朝日新聞朝刊27面(文化)「週刊朝日、独自路線貫き101年で幕 30日発売で最終号」
参考資料: