昨年12月、大谷翔平選手は米大リーグのドジャースと、10年総額7億ドル(約1015億円)という破格の契約を結んだ。その大型契約に関連して、今年1月17日付の日経にスポーツビジネスについての大学生向け解説があった。記事によれば、大谷選手とドジャースの契約は、契約総額以上の増収を期待した、ビジネスとしての投資だ。
執筆した編集委員の北川和徳さんは、集客力を利用してお金を稼ぐ点で、スポーツビジネスの原点は大道芸にあるとする。それは現代の「推し活」にも似ているだろう。チケット代や CD 代を通して応援したい気持ちをお金に変えて、推しを間接的に支援するからだ。大谷選手の巨額報酬を可能にするのは、声援を送る大勢のファンの存在だ。彼の入団が集客力を高め、チケット代や関連グッズ販売、広告収入による年俸以上の増収を期待できるからこそ、ドジャースは破格の契約を結んだ。
北川記者は、10日付のスポーツ面で、巨額契約を可能にする米大リーグ機構(MLB)の収益力についても以下のような指摘をしている。
「約30年前、MLB と日本野球機構(NPB)の市場規模に大差はなかった。プロスポーツも経済活動の一環。『失われた30年』で生じた日米の経済格差の現実を、プロ野球と大リーグは分かりやすく示している」
日米のプロスポーツビジネスの差を生むのは放映権料の違いだという。米国の収入は全米向けと各球団の地域向け中継分を合わせて年間5000億円を超えるが、日本はリーグ全体でその約1割の推定500億円だそうだ。格差の原因は放送局との契約方法の違いで、球団ごとにばら売りしている日本は収入が上がりにくい構造になっているのだとか。コンテンツに対してきちんとお金を払うことの意味を改めて感じる。昨年12月15日付の日経の関連記事によれば、米国は有料放送が早くから根付いており、放送文化の歴史の違いも大きい。
日米の優劣をこれだけで決めつけることはできないが、日本でプロ野球のビジネスを今後どのように発展させるかは、球団や放送事業者全体の課題だ。
ビジネス面に注目することで、再び選手個人の偉大さに視点が戻る。大谷選手のプレーヤーとしての本当の素晴らしさは、彼が打ち立てた記録をいくつ並べても、野球にくわしい人にしか分からない。だからこそ、大谷選手を中心に動くものの大きさを考えてみる。人、モノ、お金、心……。その熱狂の大きさが、別の角度から彼への解像度をちょっとずつ、上げてくれる。
参考記事:
17日付 日本経済新聞朝刊(11版)29面「熱狂のドラマ 収益生む」
10日付 同朝刊(12版)33面「プロスポーツ、米と経済格差」
2023年12月11日付 日経電子版「大谷翔平『1000億円の男』高騰の背景に大リーグ収益力」
同月15日付 日経電子版「大谷翔平の破格報酬生む放映権 日本は米国の1割どまり」