昨夏、筆者はベトナムのホーチミン市を訪れました。中心街には海外の有名ブランド店や高層ビルが立ち並び、現代的な都市の雰囲気がありました。しかし中心部を一歩外れると、木でできた簡素な家やプレハブ小屋がたくさん見えました。道を歩いていて出会ったのは、靴みがきで生計を立てる男性や、物乞いをする女性や子供たち。途上国の光と影、そして貧困というものを目の当たりにし、強烈な印象を受けました。日本の贅沢な生活を見つめ直すきっかけにもなりました。
貧しい国は貧しく、豊かな国は豊かに。1950年代から先進国と発展途上国の経済格差の二極化が進行し、南北問題が浮き彫りとなりました。このような現状を打開しようと国連は21世紀に入ると2015年に向けたミレニアム開発目標(MDGs)を設定し、開発途上国が抱える問題に対して、改善の努力を積み重ねてきました。その結果、一日1.25ドル未満で暮らす貧しい人や、安全な飲料水を得られない人の数は半減しました。
しかし、その効果も中国やインドの経済発展に支えられていた部分が大きく、依然としてサハラ砂漠以南の地域の目標率は低いままであるという現状があります。また、数値では解決しているように見えても、実際には地域間、男女間、民族間での格差は拡大していることもわかりました。さらに気候変動や自然災害などの問題も見過ごせません。やり残した目標を達成するため、昨年9月の国連サミットで、2030年に向けてあらゆる貧困をなくすための取り組み「持続可能な開発目標」(SDGs)が全会一致で採択されました。すべての人が尊厳と平等、健康に生きることを目指し、17の目標と169のターゲットで構成されています。
今回注目すべきは開発途上国だけではなく、地球環境や都市、雇用、ジェンダーなど先進国にも関連する問題を含めた広範囲な目標を立てた点です。例えば、ターゲット5-8では「完全かつ効率的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する」、ターゲット8-5では「若者や障がい者を含むすべての男性及び女性の完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する」とあります。これは日本にとっての喫緊の課題とも言えます。
今朝の朝日新聞には貧困撲滅に向けた取り組みがたくさん掲載されています。日本は世界エイズ・結核・マラリア対策基金への支援など、グローバルヘルス分野での貢献度が高いようです。今後はワクチンの研究・開発や、パンデミック(世界的大流行)の脅威に対する取り組みでも重要な役割を果たすことが期待されます。また、携帯電話やビッグデータを用いた感染症予防など、最新の科学技術を活用した支援も広がっています。
2030年、世界の人口は85億人に達すると予測されています。環境問題や伝染病など、移り変わる国際社会の様々な困難に立ち向かっていくのは、容易ではありません。開発援助に取り組む主体を国際機関や各国の政府だけでなく、企業や地域社会、さらには市民へと広げていく必要があります。
私たちが貧困解決に向けて身近にできることもあります。発展途上国で作られた製品を買ったり、フェアトレードのコーヒーを一杯飲んだりすることも貧しい人たちへの力になるのです。また地球の気候変動は途上国に非常に大きなダメージを与えています。環境に配慮した小さな積み重ねも大切です。一人一人が途上国の現状を知り、日本の課題を学んで、行動していくことが求められています。
参考記事:9日付 読売新聞 13版 「地球を読む」1,2面
9日付 朝日新聞 14版 「2030未来を作ろう」関連面