「中日関係は絶えずギクシャクし、たびたび谷間に陥ってしまったが、その原因は日本が一番よく分かっているはずだ」。王毅中国外相の言葉です。思わず「はい?」と言いたくなる人もいるかもしれません。「東シナ海や南シナ海に海洋進出し、力でなんとかしようとしているのは、中国ではないか」と言い返したくなります。
人工島の造成などの南シナ海問題や尖閣諸島をめぐる対立、歴史問題など、日本と中国との間には問題が山積しています。それらの問題で「冷たい関係」が続く両国の外相会談が昨日(30日)、北京で行われました。
王毅外相は「日本は対抗意識を捨てるべきだ」「困難が繰り返される根源は、歴史や中国に対する日本側の認識上の問題にある」「『中国脅威論』をまき散らすべきではない」と、厳しい言葉を岸田外相にぶつけました。これに対し、岸田外相は「立場だけなら官僚でも言える。外相なのだから、立場の違いを言った上で、どうするかを提案するべきだ」と注文しました。
「立場の違い」。これは外交問題を考えるときに、必ず考えなければならないことでしょう。日中間の問題も、相手の立場を理解しようとしなければならないからです。冒頭の王毅外相の言葉に「はい?」と思ったあなた、そう思うのも、日本人ならば仕方のないことだと思います。日中問題と言えば、「海洋進出を繰り返す中国の脅威」と考える人が多いのは確かです。ただ、落ち着いて考えなければいけないのは、中国の視点です。中国で「中日問題」と言えば、「南京大虐殺などをめぐる歴史認識問題」であり、南シナ海での人工島の造成は、日本には関係ない話と考えます。1つの問題に対する価値観は、人それぞれがどこに属し、どんな立場に置かれているかによって大きく変わります。
岸田外相は「立場の違い」と中国側にしっかりと伝えることができたのでしょうか。「関係改善のためには日中双方の努力が必要だ」と述べましたが、それは当たり前です。会談後に「突っ込んだ、素直な意見交換を行った」と述べるにとどまり、中国世論を刺激しないために、詳細は控えました。
9月に中国で行われる主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議を控え、両国ともに、関係悪化を避けたいのが本音だといいます。しかし、「本音」を言わなければ、関係悪化こそ避けられたとしても、関係改善には向かいません。本音で語り合い、立場の違いを理解する。国レベルの対話を、素直な意見交換を通して実現してほしい。そう、願います。
参考記事:
1日付 各紙朝刊「日中外相会談」関連面