今週発売の週刊少年チャンピオンに、天才外科医師が主人公の漫画「ブラック・ジャック」の新作が掲載されました。 1989年に亡くなった手塚治虫さんにちなむ新作プロジェクトの一環で、人工知能(AI)と人が共同で制作した作品です。大好きな作品の新作を読めてうれしい気持ちです。
5月に発足した「TEZUKA2023」では、大学教授やクリエーターらが、数多くの手塚作品を学習した AI を使って新作を作ります。テキストを生成する「GPT4」や画像を出力する「Stable Diffusion」を用いてプロットやシナリオを制作し、人が最終的なコマ割りやペン入れなどを担当しています。
チャンピオンに掲載された新作は「機械の心臓 Heart Beat Mark II」というタイトルで、なんと AI をテーマにした挑戦作です。AI が出力したプロットに沿った物語で、登場人物が「人間とは何か」を問うているシーンには、ちょっとしたアイロニーを感じました。
作品を読んで、まず私が称えたいことは、研究者やクリエーターの方々の挑戦への勇気です。人間の創造性や著作権など、作品制作に AI を使うことに関わる問題が次々と指摘される中で、最前線にいる人たちが正面から向き合っているのはすばらしいことだと思います。一方で、人間と AI の作業の線引きは難しそうだとも考えます。チャンピオンに掲載された説明では「あくまで主体は人間」という意図が強調されていました。しかし、はたして AI が補佐役にとどまるのはいつまでだろう。考えれば考えるほどいろんな疑問が浮かんできます。
AI を研究するということは、人間への理解を深めるということ。そして、これはまさに古典的な哲学が扱ってきた問題そのものです。考えるとはどういうことか。心とは何か。筆者はまだ自分の意見があまりないことが悩みですが、技術の発展の速さを鑑みるに、立ち止まっている暇は全くなさそうです。
ブラック・ジャックとの再会は、私にとってとても喜ばしいことです。今回の新作は、少ないページ数でこのキャラまで登場させるのか、という盛りだくさんの内容で、クリエーターの皆さんの真摯な努力を感じました。もちろん、もうこの世にいない作者の物語を復活させようだなんて、不毛あるいは傲慢と感じさせる側面もあるでしょう。オリジナルは決して復活しやしない。でも、「もう一度彼らに会いたい」という私たちのこの願いこそ、もっとも人間らしいものなのかもしれません。
参考記事:
24日付 日本経済新聞朝刊(13版)1面春秋
21日付 同紙朝刊(12版)38面「ブラック・ジャックに新作 手塚作品学んだ AI と共作」
参考資料:
「週刊少年チャンピオン」52号
手塚治虫公式サイト
「AI ×ヒトで挑む、TEZUKA2023「ブラック・ジャック」新作 週刊少年チャンピオン52号(11/22発売)掲載決定」