今年1月末、北海道の帯広にある百貨店「藤丸」が120年余りの歴史に幕を下ろした。8月末には広島県にある「そごう広島店 新館」も店じまい。来年1月14日には島根県の「一畑百貨店」の閉店が決まっている。百貨店が無い都道府県は、島根県と山形県、徳島県の計3県になる。
相次ぐ地方での百貨店の閉店。歯止めをかけることはできないのだろうか。まず、なぜ衰退していったのか。時代と共に振り返る。
大きな転換点となったのが2008年のリーマンショックだった。その後、閉店する百貨店が増える。15年には不採算店舗の閉店やインバウンド観光客の増加のおかげで都市圏の店は持ち直すが、地方圏にはその恩恵は及ばなかった。19年は全国で12店舗が店じまいに追い込まれた。その後、新型コロナの感染拡大で都市圏も含めて販売額を大幅に減少させることとなる。海外からの観光客が姿を消し、外出の自粛、インターネット販売の普及が追い打ちをかけた。
加えて、近年増えているイオンなどアウトレットモールの台頭が地方百貨店の衰退に拍車をかける。キーテナントであるスーパーマーケットを核に、百貨店の得意分野であったブランド品などの高級品を扱うテナントまで入れることで、来客層の幅を広げてきた。
筆者の自宅から歩いて5分もかからない所に百貨店が立地している。駅にも近い。デパ地下を利用することが多く、なぜ人々は駅から離れた大型商業施設をわざわざ利用するのか疑問に思っていた。ベテランの経済記者に聞いたところ、複数の背景があることが分かった。
1つ目は、自動車利用者にとって利便性が高いから。車を持たなくて済む都市圏とは異なり地方圏は多くの人が車を使っている。そのため駅前で駐車場が限られた百貨店より、郊外の道路沿いで広大な駐車場があるアウトレットモールなどの方が利用しやすい。
2つ目は、売り場の多様さが挙げられる。百貨店は1つの建物に垂直型で売り場がある。現在の衰退化に伴い営業フロア数を減らす店もある。福屋広島駅前店は今年8月31日に営業フロアを11から7に減らした。対照的に大型商業施設には個々に分けられたテナントが広い建物に並び、さらに映画館やゲームセンター、子供向けのミニ遊園地、温泉まである。筆者の友人は「アクティビティがあるため大型商業施設を利用したいと思う。ショッピングはせずにアクティビティだけをしに行くこともある。」と話す。
3つ目は、百貨店と大型商業施設の雰囲気の違いだ。友人によれば、「百貨店は落ち着いた雰囲気だったり、価格が高かったりする。入りづらいイメージがあり居心地が悪い」。逆に大型商業施設は「若者でもフラッと立ち寄れ、ウィンドウショッピングを楽しむ気軽さがある」という。東京のような大都会の雰囲気を感じることのできるアウトレットモールが好かれるのだろう。
世代を変えてみるとまた違う意見があった。40代の男性は「ブランド物を買いたい時やたまにお金をかけて美味しいものを食べたいときは百貨店。ブランド物を安くゲットして、お得感を味わいたいときはアウトレット」で若者との違いがあった。ある程度の収入がある世代とまだ学生である若者とでは百貨店に対するイメージは異なる。ただ、アウトレットモールの評価については同じ意見かもしれない。
4つ目は、日本の貧困化だ。安倍政権の経済政策「アベノミクス」が始まった13年以降、富裕層や超富裕層が増加を続けている一方、保有資産額3,000万円未満の世帯(マス層)は依然として全体の8割いる。そこでは収入のうち税金などを差し引いた可処分所得が落ちている。当然ながら人々も価格帯には敏感になっている。百貨店でも特売などセールはあるが、アウトレットモールでは365日特売。先ほど40代男性が話していたようにブランド物をいつでも安く購入できる魅力はより大きくなっている。
最後は、生活リズムの変化が挙げられる。百貨店の営業時間は、一般的に午前10時から午後7時。会社員の労働時間は午前9時から午後6時またはそれ以降。これでは勤め帰りに百貨店へ行くことはほぼ不可能である。午後8時や9時まで営業しているアウトレットモールなどの方が夜型の若者、働く人など多くの層に歓迎されるのは必然だ。
では地方百貨店は今後どうなっていくのだろうか。
筆者は地方百貨店の衰退化を止めることは難しいと考える。店舗を減らし、大型商業施設に取って代わられるのではないだろうか。百貨店が得意としてきたブランド店も大型商業施設に入っている。しかも、アウトレットモールに行けば安い価格で手に入れられる。映画館などのアミューズメント施設もあり、一箇所で全てを済ませることが出来る。それなのにわざわざ百貨店に行く人がいるだろうか。
100年以上の歴史を持つ百貨店に別れを告げることは寂しい気持ちにもなるが、時代に沿った商業施設が人々から受け入れられていくのだろう。
参考記事:
2月1日付 読売新聞オンライン「ただただ悲しい…帯広の「藤丸」閉店、北海道の地元資本百貨店は消滅」
6月23日付 日本経済新聞「中国地方の5月百貨店売上高3.3%減 閉店決定の一畑も低迷」
9日付 朝日新聞デジタル「見慣れぬ法被、よその老舗社員が店頭に 地方百貨店で進む相互出店」
25日付 中国新聞デジタル「コト消費、問われる独自色【都心はいま】パート7 未来へ㊤商業」
参考資料:
中村智彦、「地域経済における百貨店の役割の変換およびその方向性」、2020、神戸国際大学紀要