「〇〇さん、いますか?」
「いませんが・・・」
「なら、いつ入ってますか?」
先日アルバイト先の飲食店でこんなやりとりがありました。訪ねてきたのは、50代くらいの男性のお客様。挙げられた名前は昨年の春先に卒業した先輩で、「たまに特定の店員について尋ねてくるお客様がいるから注意してね」と言われたことが頭をよぎりました。
接客業において名札にはどんな役割があるのでしょうか。注文をする際は「すみません」と声をかければいいですし、何か尋ねたいときも一言声をかければ用件は終わるはずです。
付けているメリットが無いようにも見えますが、「利点が必ずしもない」とは言いきれません。
例えば、著者が昨年まで働いていた結婚式場のアルバイト。大規模な職場には何百人と学生が働いており、初めて会うスタッフと共に働くということはざらにありました。フルネームの書かれた名札の着用は必須で、もしネームプレートがなければ、筆者は何度も名前を尋ねていたことでしょう。
またある時、披露宴で新郎新婦の親御様を担当したスタッフの接客が素晴らしく、わざわざ個人宛ての菓子折りが届けられたことがありました。渡された先輩は「まさか名前を覚えてもらっているとは思わなかった。喜んでくれて本当によかった」と嬉しさに涙ぐんでいたことを鮮明に覚えています。
このように名前と顔を一致させる目的や、身元を示すことでの従業員のモチベーション向上という意味では名札は大きな役割を果たしてくれます。
一方で、自分自身の個人情報が安易にさらされてしまうデメリットもあります。名札から個人を特定され、SNSで誹謗中傷されたり、ネットストーカーをされたりする事例もあるようです。
実際に個人の特定から守る動きは見られ、6月13日の読売新聞には、「プライバシー侵害の懸念の観点から、佐賀市の自治体職員では名札をフルネームから名字のみに変更する」という記事がありました。確かに、名字だけなら、フルネームよりも個人情報が抑えられ、プライバシーを守ることができそうです。ただ、珍しい名字の方にとっては意味が無いように感じます。
タリーズコーヒージャパンでは、2022年5月から名札の表記を、漢字とローマ字の併記からイニシャルのみに変更しています。たしかにイニシャルやニックネーム、レジ番号のような表記にしても良いのではないでしょうか。
ネット社会が広がった昨今は、名札表記の在り方についてもう少し「石橋を叩いて渡る」必要があると思います。
参考記事:
6月13日付 読売新聞朝刊(東京)34面「自治体職員名札 名字のみ SNSで情報検索 懸念」
読売新聞オンライン 2022年9月17日「カスハラ 名札で氏名特定しネットで中傷…国・企業が表記見直し、姓のみ・役職名だけ・イニシャル」