今年は、関東大震災から100年の年です。関東大震災では、地震による直接的な被害に加えて、火災による犠牲も甚大なものとなりました。木造住宅が密集していたことが原因とされています。現在でも木造密集市街地は残されています。現状とその対策、課題を調べました。
◇木造密集市街地
2013年に、内閣府防災対策推進検討会議の首都直下地震対策検討ワーキンググループが公表した「首都直下型地震最終報告書」の被害想定によると、死者は最大で2万3千人とされています。そのうち、火災による死者は1万6千人と、全体の約7割を占めます。こうした地震による火災をさらに拡大し、延焼を広げるものとして、「木造住宅密集地域」が挙げられます。戦後間も無く建築され、老朽化の進む木造住宅が、東京都の山手線外縁部などに集中して残っています。こうした地域では狭い道路も多く、火の手が上がっても、消防車が入れず消火が困難です。
これは、地震火災に限ったことではありません。2016年に発生した「糸魚川市大規模火災」では、ラーメン店のコンロの消し忘れによって、約3万平方メートルに及ぶ地域で家屋や商店が焼失しました。消防庁は2017年度の「防災白書」で、この地域を「昭和初期に建てられた防火構造に該当しない木造の建築物が密集しており、比較的火災に対する性能が低い区画」だったと指摘しています。
◇目標未達成「密集市街地の解消」
国土交通省は、2006年に閣議決定した「住生活基本計画」において、「地震時等において大規模な火災の可能性があり重点的に改善すべき密集市街地のうち大規模火災に対する最低限の安全性が確保される市街地の割合」を2011年までに「おおむね100%」にするという目標を掲げていました。しかしながら、いまだに目標は達成されていません。あらためて、国交省は2021年に閣議決定した「住生活基本計画」で、「地震時等に著しく危険な密集市街地」を、2030年度までに概ね解消するとの目標を掲げています。
◇東京都の対策
東京都では、2012年から「木密地域不燃化10年プロジェクト」が進められ、徐々に密集市街地は解消してきています。都は、国交省とは違った手法で、独自に危険度を測定し、「木造住宅密集地域」(以下、木密地域)を指定しています。都によれば、1996年に2万4千haあった木密地域が、2016年には、1万3千haに減少しています。木造住宅の建て替えを促進するために、助成金を支出することなど金銭的な支援に加えて、狭い道路の拡張などに取り組んできました。
ただ、土地の「地権者」、土地の上に建つ建造物の「権利者」、そして、そこに実際に住む「住民」という三者の権利関係が複雑に入り組んでいることで住宅の建て替えが難しく、密集市街地の解消を妨げていることも指摘されています。建て替えなどを促進するハード面の対策は、長期間にわたる取り組みが必要でコストもかかります。そのため、都は、地震を感知した場合、電気の流れを遮断する「感震ブレーカー」の設置や、大規模火災での避難路の確保などを中心に、木造密集市街地の危険性を「低下」させる政策も講じています。
◇複合的な対策で、密集地域火災の防止を
このように、密集市街地の解消は、建物の建て替えなど一つだけの対策だけでは不十分です。火が燃え広がらないように、住宅密集地の間に延焼遮断帯と呼ばれる道路を整備するほか、感震ブレーカーの設置、さらには防災訓練の実施など、あらゆる対策が求められます。首都直下型地震は、30年以内に70%の確率で発生すると言われており、起きる前提で対策を進めることが求められています。都や国には、問題を先送りせず、取り組みを一層推進することを期待します。
朝日新聞『東京、大阪…密集市街地、燃え広がらない試みを阻むのは 』2019年12月22日
日本経済新聞『密集市街地とは 火災の危険性高く避難困難 』2019年3月11日
毎日新聞『阪神大震災25年/中 木造密集、危機意識低く 』2020年1月17日