古いようで新しい?クラシック音楽の世界

「クラシック音楽」に皆さんはどのような印象を持っていますか。「古い」「昔の」音楽だと思っている方が多いのではないでしょうか。まさに、「classical(古典的・伝統的)」な音楽というわけです。

確かに、このような捉え方はある程度、的を射たものであることは否定できません。しかし、実はクラシックは「新しい」音楽でもあるのです。

◯歴史におけるクラシック

当然ながら、古典は生まれた時から古典であるわけではありません。現在親しまれている名曲の数々も、かつては「新しい」音楽だったのです。

クラシックは、常に新しい技術や技法を用いて進化してきました。

新技術との関係では、18世紀イギリスで起きた第一次産業革命が与えた影響が指摘されています。例えば、機械工業の発達によって、トランペットやホルンなどの金管楽器にピストンやバルブが付くようになり、半音階を出せるようになるなど、その機能性は大幅に向上しました。

産業革命前後で、使われている楽器の編成を見比べてみると、革命が与えた影響がいかに大きいものであったかがわかるでしょう。

曲の内容そのものも歴史を反映しており、作曲当時の出来事をテーマにした音楽が数多く存在します。

例えば、20世紀に活躍したソ連の作曲家ショスタコーヴィチが書いた交響曲第7番「レニングラード」は、第二次世界大戦における最も悲惨な戦闘の一つとも言えるレニングラード包囲戦を題材としています。この街で生まれた彼は、ドイツ軍に包囲された故郷で作曲に取り掛かりました。

このように、クラシック音楽は歴史と共に常に変化してきたのです。

◯現代社会とクラシック

かつてほどではないかもしれませんが、現代社会においても、クラシックは社会の潮流を反映しています。

21日付の日経新聞の朝刊では、欧米のオペラ業界における多様性の尊重が取り上げられていました。

近年、オペラの舞台で、黒人などのマイノリティの活躍が顕著になっています。記事でも取り上げられていたニューヨークのメトロポリタン歌劇場では、近年「ポーギーとベス」など黒人を題材とした演目を積極的に上演しています。このような動きは、黒人差別に反対するブラック・ライブズ・マター(BLM)運動などの影響を受けたものであるといいます。

また、オペラと現代社会との関係については、「読み替え演出」も興味深い事例として挙げられます。舞台の時代設定などを、他の時代、例えば、現代に置き換える演出のことです。2022年に英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演された「アイーダ」は、舞台が古代エジプトから架空の現代的軍事国家に置き換えられています。

現代を舞台にした読み替え演出では、現実の社会で起こっている問題が組み込まれることも多々あります。

このように、クラシック音楽は、現代社会を捉えるための一つの手がかりでもあるのです。

新技術の導入にも依然として取り組んでいます。

例えば、近年AIを搭載したアンドロイドの指揮者の研究が始まっています。国立音大と東大の共同研究では、テンポを刻むだけでなく、奏者の表情を把握して指揮に生かす方法も模索されています。AIやIoTをはじめとする第四次産業革命もまたクラシック音楽を大きく変え得るのか、今後に注目です。

常に進化し続けるクラシック。皆さんも、モーツァルトやベートーヴェンなど馴染みのある音楽だけでなく、「新しい」クラシックにも触れてみてはいかがでしょう。

参考紙面:

5月21日付 日本経済新聞朝刊12面 NIKKEI The STYLE―欧米オペラ、舞台からの新風(文化時評)

2020年1月12日付 朝日新聞朝刊(東京)17面 AIタクト、情感も追求 演奏者の表情把握 国立音大・東大研究

参考資料:

松田亜有子「大音楽家を生まなかったイギリス。しかし産業革命はクラシックに大きく影響した!」ダイヤモンド・オンライン