国際卓越研究大学 大学の意義とは

文部科学省は4日、世界最高水準の研究力をめざす大学に10兆円規模の大学ファンドの支援対象に10校が申請したと発表しました。大学ファンドは公募で選んだ数校を「国際卓越研究大学」に認定し、株式や債券の運用益をもとに支援します。東京大は脱炭素・バイオ、東北大は量子技術などの研究を強化することを掲げました。審査は文科省が設ける専門家組織が担い、これまでの研究実績のみならず、意欲的な財政戦略が重視されます。

私は高校時代に物化部に所属し、無電解銅めっきの研究をしていました。私の通っていた高校は県立でしたが、「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定されており、恵まれた環境で活動することができました。文科省は将来国際的に活躍しうる科学技術人材の育成を図ることを目的とし、SSHを通じて、理科・数学等に重点を置いたカリキュラムの開発・実践や課題研究の推進、観察・実験等を通じた体験的・問題解決的な学習等を支援しています。この事業は自然科学に特化しています。

一方、「国際卓越研究大学」においては、大学の国際競争力の強化及びイノベーションの創出の促進のために大学の研究体制を強化することが求められ、自然科学・人文科学の分はないのです。しかし、認定される大学には、年3%もの事業成長が求められます。利益に直結しにくい、基礎研究や人文社会学系の研究は、「稼げない」からと縮小されかねません。学内の学問間格差が拡大することは容易に推測されます。また、学内にとどまらず、大学間格差・地域間格差も加速していくでしょう。最も懸念されるのは、財政界の意向に流され、大学の自治や学問の自由が奪われることです。

大学は、本来教授と学生の自治組織であり、重要な教育機関・研究機関だったはずです。大学ランキングや事業成長など目先の数字ばかりにとらわれて、大学の本質が見失われてしまってはいないでしょうか。

 

参考記事:

5日付 日本経済新聞朝刊 2面(総合1)

5日付 朝日新聞朝刊 1面

4日付 朝日新聞朝刊 11面(オピニオン)

「稼げる大学」って何? 国立大授業料、年500万円もありうる? 石原俊・明治学院大教授に聞く|大学はどこへ|朝日新聞EduA (asahi.com)

参考資料:

国際卓越研究大学制度について:文部科学省 (mext.go.jp)

スーパーサイエンスハイスクール(SSH):文部科学省 (mext.go.jp)