笑う角には福来たる

「みなさん、こんにちは。桂友楽でございます。さて、隣町の……」

2011年の初夏、東日本大震災の避難所となった宴会場に響く声。端っこに陣取り、座布団を敷き、被災者の方々の前で一席うかがうアマチュア落語家がいたそうです。今日の日本経済新聞で紹介されています。まさに笑う角には福来たる。大友さんは仙台の生まれ育ち。10年前に会社を退職してから趣味の落語に打ち込み、アマチュアとして活動してきたといいます。

大友さんの自宅も震災で半壊し、自分の生活も大変でした。しかし、いてもたってもいられなくなり、扇子を携えて避難所を回り始めました。多い時で年間50カ所以上。笑いの力を信じ、ご近所のつながりがテーマの落語を披露しました。歴史好きを活かし仙台の英雄を主人公にした落語の創作もしています。1作に2年ほどかかるそうで、是非ともその月日の結晶を聞いてみたいものです。

そこで大友さんの信じた笑いの力について考えてみます。少し前の記事ですが「笑う」ことに注目した特集が朝日新聞の別刷り「GLOBE」(2月7日)を読みました。そこにヒントがありました。

笑うことは人間特有で、サルは笑わないらしい。京都大学霊長類研究所の正高教授は、サルは硬いものを噛む筋肉が発達したため笑い顔をつくることができないと指摘しています。そもそもその感情がないのです。それではなぜ人は笑うのか。笑いを身につけたことの一つに、共感したいという心理が関係しています。確かに、はじめの自己紹介でなにか面白いことを言われ笑ってしまうと心の結びつきがより強くなって、お互いに協力しやすくなります。

大友さんの記事に戻りますと、やはり震災直後、不安を抱え、途方に暮れ、疲れきっている人たちの前で笑いをとるのは難しいことだったでしょう。それでも大友さんの活動からは、誰かと共有することでうまれる温かさが伝わってきます。ハード面での復興で私が直接できることは少ないかもしれませんが、心に大きな喪失感を抱える人はまだまだいらっしゃいます。これからの支援では笑いも一つのキーワードになるかもしれません。

 

参考記事:9日付 日本経済新聞 文化44面「仙台の英雄噺をひとつ」

2月7日付 朝日新聞 別刷りGLOBE No.176 「笑いの力」