収入が一定額を超えると税金や社会保険料の負担が増える、いわゆる「年収の壁」問題。主婦層をはじめとするパートタイム労働者の意欲を削ぎ、女性の就労の壁になっていることが問題視されています。この解決に向けて政府は、企業に助成金を出すことでパート労働者の保険料を国が実質的に肩代わりすることを検討しています。しかし、それが根本的な解決になるのでしょうか。少し考えてみます。
まず、簡単に「年収の壁」について解説します。ここでいう壁にはいくつかあり、世帯主の所得上限などの条件もあるのですが、代表的なものが扶養の境である「103万円の壁」と、社会保険料の境である「130万円の壁」です。前者は主に学生アルバイトに関係しており、ここを超えると本人ではなく扶養者、つまり親の給料にかかる税金が十数万円増えてしまうため、壁と呼ばれています。
学生と違い、いわゆるパート主婦は「配偶者特別控除」という制度によって201万円までは控除を受けることができます。しかし、130万円(会社によっては106万円)を境に社会保険料がかかるので、こちらは手取り額が十数万円ほど下がってしまうのです。また、家族手当制度がある会社に世帯主が務めていれば、それが支給されなくなることで更に差がついてしまうこともあります。これらを気にして年末に「就業調整」をする人が増え、本来働けるはずの労働力が失われているというわけです。
この問題を考える時、真っ先に思いつくのが「壁をもっと高い位置に置く」ことだと思います。しかし、壁を高くすると、できるだけ多くの短時間労働者を社会保険に入れようとしている国の改革に逆行してしまうのです。そして何より、それは新たな壁を作り出してしまい、就業調整の範囲を広げてしまいます。根本的な解決は望めません。
そこで今回政府が掲げた政策は、壁を超えると手取り収入が減る逆転現象が起きないようにするために、まず企業に補助金を出し、その後で制度の見直しに取り組むというものです。応急措置としては理にかなっていますが、最終的な方針を決めなければただ問題を先送りにするだけです。
21日の日経新聞には、カナダの事例を参考にした新たな保険料徴収の案が掲載されていました。簡単に言えば、年間収入で55万円を基準に、それを上回る収入を得ている人については55万円を超える分に対して定率の負担を課すのです。つまり、壁をむしろ下げようという試みです。手取り収入の落ち込みはなく、保険料の負担を公平にできる点で、年収の壁を解決する一つのモデルケースだと言えるでしょう。政府には現行の制度に縛られず、あらゆる選択肢を模索してもらいたいものです。
ここ数十年放置されてきた年収の壁問題。見せかけの改善策ではなく、抜本的な改革を望みます。
参考紙面:
・[社説]年収の壁対策は「第3号」見直しが本筋だ – 日本経済新聞 (nikkei.com)
・「年収の壁」解消できるか 保険料徴収に控除新設、一案 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
・「130万円の壁」簡単に打開できない働き損 優遇されるのは誰だ:朝日新聞デジタル (asahi.com)
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