東京・新橋に「有薫酒蔵」という九州郷土料理が売りの居酒屋があります。通称「よせがき酒場」。昨日の日経新聞朝刊には、居酒屋の目玉である「高校よせがきノート」について紹介されていました。
「高校よせがきノート」 とは、同窓生が寄せ書きを綴れるノートでされています。記事には、お店で保管されているノートが3400冊以上もあることが触れられていました。実に全国7割の高校をカバーできていることになります。全ておかみである松永洋子さんの手作りです。校舎の写真や校歌の歌詞も貼り付けられています。
今年の初め、筆者も高校時代の同級生4人で「有薫酒蔵」を訪れました。「社会人になる前の思い出作りに」と仲間の1人が提案したことがきっかけでした。
壁一面にノートがびっしりと埋まる姿に、思わず呆気にとられました。ノートを見られるのは自分の出身高校のみ。20年ほどの歴史しかない筆者の母校も保管されていました。書き込みは20人分ほど。伝統校と比較するとかなり少ない数ですが、知っている先生との思い出などが綴られています。思わず「分かる」「懐かしい」と声に出てしまいそうな内輪ネタも数多くありました。結婚された先輩同士での書き込みも実に微笑ましいものでした。
早速、一枚のページを4分割して同級生たちと書き込みました。内容は、美味しかった学食や学園祭の思い出、春から社会人になることの期待と不安です。
ノートには、「必ず名刺を貼り、正確な卒業をした年を書くこと」という決まりがあります。そのため、多種多様な職業の名刺がテープで貼られていました。「OB訪問いつでも受け付けているので連絡ください」という言葉も見られます。ページを捲り続けると、驚くことに筆者の就職先にOGがいることを知りました。2006年の卒業生ですから、12年も先輩です。プライバシー保護の観点から写真撮影禁止のため、名刺に書かれたメールアドレスをメモすることに決めました。
家に着いてからも、先輩のことが気になりました。大学での先輩後輩関係はよく聞くものの、高校はなかなか耳にしません。筆者の就職先には大学のOGがいないため、縦の繋がりに憧れを持っていたのも事実です。ここは思いきってメールを送ることにしました。以下が一部抜粋したメールでのやり取りです。
【送信文】
突然のご連絡大変失礼いたします。
(一部省略)
実は、先日に新橋の「有薫酒蔵」へ母校である〇〇高校のよせがきノートを見に行きました。
そちらに〇〇さまの書き込みを見つけ、名刺にあったメールアドレスを頼りにご連絡させていただきました。私は高等部を2018年に卒業しました。
【返信文】
この度はご連絡ありがとうございました。
その居酒屋、いつ行ったのかもう思い出せないのですが、
こうしてつながってくれる人がいただけでも行ってよかったです。
〇〇の卒業生とのこと、私も社内でまだ会ったことがないので嬉しいです!
一億総発信社会で、SNSで簡単に繋がれる時代です。しかし、「追加」や「フォロー」といった行為だけで、会話をしない放り出していることはないでしょうか。寄せ書きノートから始まったメールのやり取りは、人付き合いが気薄化する社会でなんだかほっこりするご縁に思えました。もちろん、文面を読んでいるだけでも強い繋がりを感じることができます。ノートを閉じた後、温かな気持ちになれましたから。アナログな交流の場がさらに広まることを願いたいものです。
参考記事:
15日付 日経新聞朝刊 埼玉48面 「よせがき酒場、旧縁つなぐ」