ちょうど1年前の今日、衝撃的なニュースが飛び込んできました。日本電産サンキョーがスピードスケート部を廃止するというのです。同社スケート部は過去のオリンピックでメダリスト5人を輩出した名門です。筆者がスケートを始めた2010年に開かれたバンクーバー五輪では、男子500メートルで所属選手2人が表彰台に上がりました。小学校1年生ながら彼らのスケーティングを見て感動したのを覚えています。昨年開催された北京オリンピックでも高木菜那選手が女子パシュートで銀メダルを獲得するなど、廃部直前まで名門の誇らしい姿を見せていました。筆者にとって同社のスピードスケート部はずっと憧れの存在でした。
名実ともに最強チームであった日本電産サンキョーの廃部は、スピードスケート界に衝撃を与えました。そもそもマイナー競技であるため、大学卒業後の受け入れ先が多いとは言えません。チームを持つ企業は一段と減っています。もともと厳しい環境でしたが、同社の廃部により、さらに競技を続けるのが難しくなったといえるでしょう。
スピードスケートに限らず、近年の企業スポーツでは休廃部が相次いでいます。運営に多大な費用が掛かるにも関わらずプロと違い収益が見込めないため、会社の収益が悪化すると活動を打ち切る企業が多いのです。また、終身雇用制からの脱却など経営構造の変化や、スポーツ自体の魅力や価値の低下なども引き金となります。企業がこれらの要因を考慮し、自社の利益や存続のため廃部を決断することは非難できることではありません。しかし、アスリートがスポーツを続ける場がなくなっていく現状を看過するわけにもいきません。
そんな中、新しい選手支援の形が北海道で模索されています。従来のように企業がチームを持つのではなく、1企業が1人の選手を支援し、複数企業の選手が力を合わせて活動する「札幌スケートスクラム構想」です。地元企業の協力により、プロジェクトは着実に形になってきています。サンキョー廃部に伴い所属先を失った選手も合流するなど、実力のある選手が揃ったことで2022-2023年シーズンには複数名がワールドカップ代表に選出されました。
まだ始まったばかりの札幌スケートスクラム構想ですが、受け入れ先の減少に苦しむ選手たちの助けになっていくはずです。筆者は実力不足もありますが、中学卒業とともに大好きなスピードスケートから離れました。辞めてから5年以上経っても未練が消えません。大学まで続けた人ならなおさら競技から離れるのが辛いでしょう。スケートに限らず、本人の意思や実力以外の理由でスポーツを続けられないということが減っていくよう、札幌のような取り組みが他の地域や種目にも広がっていくことが期待されます。
参考
2月28日付 日本経済新聞「北京五輪日本代表の旗手、札幌のウェルネット広報で躍動 挑む 郷亜里砂さん」
2022年3月2日 朝日新聞「日本電産サンキョー廃部 スケート名門、高木菜ら所属」
2021年11月18日 道新スポーツ「札幌に『小鍛冶組スケーティングチーム』 学生スケーターの受け皿に」
2014年12月1日 一橋大学スポーツ科学研究室 中村英仁「企業スポーツ休廃部要因の実証分析に向けて:実証分析の必要性と仮説の検討」