先月27日、岸田首相が国会答弁で育児休業中の学び直しを後押しすると発言したことについて、SNS上で批判が集まっています。育児休業は、休暇ではありません。育児の時間です。筆者に経験はありませんが、子育てが片手間でできるものではないことは想像に難くありません。
育休中の学び直しは、少子化対策の一環として自民党議員から提案されました。キャリアが途切れることを懸念する人でも出産に踏み切れる環境を整えようという意図だと思います。しかし、育児をしながらの学び直しが可能なのであれば、リモートワークなどで仕事そのものを続けることもできる理屈です。実際はそれが不可能なほど大変なのが育児なのです。意思決定の場に育児経験者の視点が足りていないことを痛感する一件でした。
出産・育児によってキャリアを途絶えさせないようにするためには、個人の努力ではなく国や企業による制度の改革が必要だと思います。日本では未だに「男性は外で仕事、女性は家で家事」という考え方が残っており、結婚・出産を契機に多くの女性が退職しています。職場に残ったとしてもその後のキャリア形成が難しくなることが少なくありません。女性の管理職が極端に少ないことがその現実を如実に表しています。
出産をきっかけに専業主婦になることをマイナスに捉えない女性も一定数います。しかし、男性と同じように努力して大学に進み、就職したにも関わらず、わずか10年足らずでキャリアが途絶えてしまうのはとても悲しいと感じます。筆者はまさに今、就職のため語学などの勉強に取り組んでいますが、時々どうせ出産したらキャリアが途絶えてしまう可能性が高いのになぜこんなに頑張っているのだろう、と虚しくなります。同じ気持ちをかかえる女性も少なからずいるのではないでしょうか。
女性内でも出産・育児とキャリアの関係について異なる立場が存在します。どれを取るにしろ、今のまま女性だけの問題にしていてはいけないと思います。確かに、出産は女性にしかできませんが、育児は男性にでもできるでしょう。にも関わらず、育休に伴うキャリアの問題が議論となるのは女性だけです。
筆者は、夫婦が出産後共働きを選択するにせよ、片方が専業主婦・主夫になるにせよ、その選択から性別のバイアスを外すべきだと考えています。現状は女性が育休を取り、仕事を離れるのが一般的です。しかし、その選択をするのが女性である必要はあるでしょうか。社会に根付いた偏見を取り除くためには、個人の行動ではなく抜本的な制度の改革が必要だと思います。
実際に、昔は日本と同じように男性中心社会だったにも関わらず、制度の改革により育児に対する性別バイアスをなくすことに成功した国があります。北欧アイスランドです。世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ指数で11年連続1位を獲得しています。女性、男性共に育休を取るための制度を導入したことで、育児は女性の仕事という思い込みが消え、女性が子育てをしながら働き続けることが当たり前になりました。アイスランドの父親の育休取得率は7割以上に達します。育児面での男女平等は、社会進出における男女平等ももたらし、現在では企業の役員や国会議員の4割以上が女性です。
日本は男女平等や、育児のしやすさといった面で後進国です。ジェンダーギャップ指数は2022年時点で146か国中116位。これ以上の少子化を防ぐためにも、女性の社会進出を促進するためにも、アイスランドなど男女平等が実現された国の制度から学びながら、制度を改革していく必要があると思います。
参考
1月29日 朝日新聞「育休中のリスキリング 『後押し』、首相答弁に批判 識者『理解欠く』」
NHK福祉情報サイト ハートネット 「特集 世界でもっとも男女平等な国(1)父親の育休取得率7割!」