1月19日に第168回芥川賞・直木賞が発表され、両賞ともに2作ずつの受賞が決まりました。発表を心待ちにしていた筆者は、アルバイト先の書店で真っ先に『地図と拳』を買い、読んでいるところです。本離れが進む現代人に向け、今回は直木賞に注目してその魅力を伝えたいと思います。
時々思い違いをしている人がいますが、直木賞は、純文学から選ばれる芥川賞とは異なり、エンタメ性の高い「大衆小説」から選ばれる文学賞です。「何時間もかけて読んだ小説が面白くなかった…」といった事態を避けたい私たちには、実はうってつけの賞なのです。
また、芥川賞が新人作家に贈られるのに対し、直木賞は新人に加えて中堅とされる作家にも対象であるため、以前から自作を出版していることが多くあります。つまり、受賞作以外の作品をすぐに読むことができるため、お気に入りの作家を見つけるにはうってつけなのです。私自身も、第165回直木賞受賞作である『テスカトリポカ』をきっかけに、作者である佐藤究さんの書籍化された作品は全て読んでしまいました。
娯楽として手軽に読めるうえ、新しい作家を見つける機会にもなる直木賞。今回の注目は、何と言っても私も手にしている『地図と拳』の著者小川哲さんでしょう。この作品は、受賞前からも注目されていたうえ、最新作である『君のクイズ』も本屋大賞にノミネートされるなど人気が高まっています。
『地図と拳』は、満州の架空の都市「李家鎮」を舞台に、日露戦争前夜の1899年から第二次世界大戦までの半世紀を書いた、600ページを超える超大作です。筆者も未だ読み終わってはいませんが、史実と空想の境が分からなくなるほど緻密に作り上げられた世界観に驚かされ続けています。
それもそのはず。なんと本作の参考文献は何と150冊以上にのぼります。ただ、かなり読みごたえがあるので、普段あまり本に馴染みのない方は、もう一方の受賞作である千早茜さんの『しろがねの葉』や、先ほど紹介した『君のクイズ』から読んでみても良いかもしれません。
ちなみに、芥川賞は毎年3月号と9月号の「文芸春秋」に全文掲載され、直木賞も一部だけですが「オール読物」に掲載されます。芥川賞受賞作の場合、ハードカバーで2冊買うと3000円以上するところ、文芸春秋で読めば1000円程度で全文読むことができます。2作受賞した今回は特におすすめです。
「本を読んでみたいけれど、何から読んでいいかわからない」。そんな気持ちでいる人は少なくないと思います。そんな時は、まず直木賞受賞作品に取り組んでみてはいかがでしょうか。
参考紙面:
・19日付 読売新聞オンライン「芥川賞・直木賞、ともにダブル受賞…芥川賞の井戸川さんと佐藤さんは初の候補 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)」
・19日付 朝日新聞デジタル「芥川賞に井戸川射子氏と佐藤厚志氏 直木賞に小川哲氏と千早茜氏:朝日新聞デジタル (asahi.com)」
参考資料:
・書評家・杉江松恋が読む第168回直木賞候補作 迫真の満洲国群像劇が現代を照射する「地図と拳」の破格さ|好書好日 (asahi.com)