昨年末、新卒1年目として働く大学の先輩から一件のメールが届きました。
英語か数学の教員免許を取得する見込みで、非常勤枠の働き口を探している学生を急募しているというのです。聞くと、学校関係者から頼まれた案件で、適任者を探しているとのこと。学校は都内の中高一貫校で、人手不足に拍車がかかっているようです。
今朝の日経新聞は、「先生の質 保てない」という見出しの記事が1面トップを飾っていました。教員不足や不登校の急増などで「学校崩壊」の危機が迫っていること、公立小中高校と特別支援学校の2092校で計2778人の欠員が生じていたことなどが明らかにされていました。Twitterでも「先生の質」がトレンド入りをしています。
筆者には前々から疑問に感じていることがありました。小中高に通う児童や生徒を対象にした、なりたい職業ランキングでは毎年「教師/教員」は上位ランクインしているにも関わらず、深刻な人手不足に陥っているということです。しかも教育学部でなくても教員免許の取得を志す学生が多い現状にも関わらず、その大半が教員の道に進まないのです。(http://allatanys.jp/blogs/18455/)筆者も元をただせば教員志望でしたが、大学での活動を通して他の業種に魅了を感じたことが、別の道に進むきっかけになりました。
筆者の所属する学科では、筆者を含め11人が美術の教員免許を取得する見込みですが、この春教員になるのはたったの2人です。
この疑問を少しでも解消するために、この先も教員の道に進む予定はないと言う同学科の学生2人にインタビューを実施しました。
Aさん(22) この春一般企業に就職予定
Bさん(22) この春大学院へ進学予定
筆者:なぜ教員免許を取ろうと考えたのですか。
Aさん:親に教職をとらないと学費を納めないと言われたからです(笑)。ただ、大学に入学したからには何か頑張った証が欲しいとも考えていたので、親に言われなくても取っていたかもしれません…
Bさん:私は以前から教員も進路の一つとして考えていたからです。
筆者:なるほど…そんなお二人が最終的に教員を志さない理由を教えてください。
Aさん:教育実習中に教員になることへの難しさを感じたからです。
筆者:と言いますと?
Aさん:実習では、授業中の生徒の反応やその成長の具合を目にする度に教員としてのやりがいを感じました。その反面、保護者や地域への対応、学校行事の準備などの事務量が教科指導に比べて膨大であることを実感したのも事実です。採用試験も申し込んでいましたが、実習を通して教員の仕事の多さを目の当たりにし、自分のメンタルでは難しいと思い諦めました。
Bさん:私はとにかく大変そうなイメージが強かったからです。元から教員を目指していた訳ではありませんが、実習を通して生徒との距離のとり方の難しさも感じ、企業へ就職しようという気持ちが一層高まりました。
筆者:実際に働く現場を目にしたことで気持ちの変化があったのですね。
Bさん:任せていただけた部分は教員の仕事の一部であることも感じました。実際の職場はもっと厳しいものなのではないかと。先生方の話を聞き、忙しさや働き方に地域差があることにも懸念がありました。
上記は一部にすぎません。2人の学生からは「やりがい」という言葉も聞けましたが、働き方の問題で教員に対する魅力が失われつつあることが分かりました。
志願者の深刻な減少が騒がれるなか、教員を志す学生にも話を伺いました。埼玉大学4年のCさん(22)は、この春から埼玉県内の公立小学校で働くことが決まりました。「子供に興味や関心を持たせるきっかけを作りたい」という理由で教員を志したと言います。「働き方改革は進んでいますが、やはり多忙なのが心配です。成績処理や報告書の作成、PTA、保護者対応などに負担感を感じている先生が多いと伺いました」。時々不安を覚えるそうです。一方で、実習を通して「子供たちも先生に熱い信頼を置いていて、魅力的な仕事」だとも訴えます。
「部活顧問を任される可能性の高い公立よりも、指導者を外部に委託する私立を希望するようになりました」。こう語ってくれたのは、昭和女子大学院1年のDさん(24)です。修了後は私立中学の教員を志望しています。「楽しかった中学時代に戻ることはできないけれど、教員として生徒の人生の楽しい時代を創るサポートやその時に立ち会いたい」と語ってくれました。
昨年早稲田大学を卒業し、この春新聞記者になるEさん(25)は、セカンドキャリアとして教員を視野に入れています。「社会経験を生かし、生徒に多種多様なキャリア教育をしたい」「記者として見聞きした世界を共有したい」と意気込む一方で、「自分が教員になるまでに改善してほしいことが多い」とも言います。
朝刊記事を読み進めると、「受験に必要な教員免許状は大学で単位を集めれば取れ、適性や能力は厳しく問われない。力不足の志願者も多く、倍率に比例して教員の質も下がる。」とも書かれていました。国力の低下に繋がりうる教員不足。教員を志す/志さない学生のリアルな声から、教員の養成も採用も見直すべき現状が露わになりました。
参考記事:
本日付 日経新聞朝刊 埼玉14版 1面 「先生の質 保てない」