議員の先生呼びをドラマ「相棒」から考える

1月1日の夜と言えば、テレビドラマ「相棒」の元旦スペシャル。刑事モノとして長年人気を誇るドラマで、社会の病理に鋭く切り込む描写が多々あるため、勉強にもなります。

さて、そんな特別編の「相棒」ですが、今年は政治家、袴田茂昭の家に眠る金塊を盗むという予告状が届くところから始まります。政治家の人間関係や権力、闇が存分に描かれた展開だったこともあり、ドラマで見えた政治家のリアルを取り上げます。

最も注目したのは、議員を「先生」と呼ぶ光景が度々見られたことです。主に茂昭の息子で秘書の茂人が「先生!」と呼ぶ場面が目立ちましたが、相棒の登場人物は政治家をなんと呼んでいるのでしょうか。

主人公で警視庁警部の杉下右京は、国務大臣の鑓鞍兵衛(やりくら・ひょうえ)に対して「先生」と声を掛けたものの、他の政治家を「先生」と呼ぶシーンはなかなか見当たりません。袴田茂昭のことも「あなた」もしくはフルネームで呼んでいます。一方で、鑓鞍と近い関係にある元議員の片山雛子は「鑓鞍先生」、内閣情報調査室の内閣情報官、社美彌子(やしろ・みやこ)も「先生」と呼んでいました。

人気ドラマは、議員のことを「先生」と呼ぶ長年の風習を描写していますが、現実の政治の世界では別な動きも。昨年9月21日に大阪府議会議長らが「先生」の呼称を使用しないことを提案しました。議員が特別だとの勘違いを起こす、住民と対等な立場にある議員には当てはまらないなどが大きな理由です。すでに先生呼びをさせない議員もいるようですが、大半は依然として先生と呼ばれているのが現状です。

議員の呼称になったのは、明治時代。議員の書生(秘書)が議員から政治を教えてもらっていたためのようです。この理由からは、袴田茂人が父親の茂昭を、秘書という立場で「先生」と呼ぶことには納得がいきます。しかし現代では秘書だけでなく、地元の応援者や若手議員、そして記者まで、幅広く議員を「先生」と呼んでいます。

広辞苑によると「先生」は「学問や技術・芸能を教える人。特に、学校の教師や自分が教えを受けている人」、「学識のある人や指導的立場にある人を敬っていう語」です。秘書の袴田茂人が父親でありながらも先生と呼ぶのは、公私のけじめの意味合いも感じますが、応援者や記者にとっては今までの習慣上そう呼んでいるだけに思えます。

「憲法第四十三条 第1項 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」からすると、国民の代表ではあっても、先生と呼ぶに値するかはなんとも判断しにくいところです。

面白いのは、先生呼びが禁止されると、名前が分からないときの便利な呼び名が使えなくなる不都合が生じるとの声があることです。私たちが「委員長」「社長」「部長」などと役職名で呼ぶのと似通った側面もあるのかもしれません。とはいえ、「先生」と呼ばれることで勘違いをおこし、議員が問題を起こすのであれば、それは呼称だけの問題では済みません。「まずは形から」との意見には一理あります。

結論としては、使う本人にとって相手が「先生」に値するのであればそれでいいけれど、政界では当たり前になっているとはいえ一度立ち止まって考えてみることが大切ということでしょう。元旦から相棒を通して、普段は遠く感じる政治の世界を考えることができました。

 

参考記事:

2022年9月28日読売新聞オンライン「議員を「センセイ」と呼ばないで 呼称巡り大阪府議会が職員らに通知」

2022年9月29日読売新聞オンライン「議員を「先生」と呼ばないで…府職員の慣例、特権意識生ませないため呼称変更」

2022年10月15日読売新聞オンライン「議員を「先生」と呼ばないで…府職員の慣例、特権意識生ませないため呼称変更」

2022年10月16日読売新聞オンライン「「先生、じゃなくて議員ですね」…「名前ど忘れした時には便利だったのに」と職員の本音も」