11月18日から21日まで、韓国外交部が主催する日中韓大学生外交キャンプが開催され、筆者も参加してきました。
このイベントは韓国外交部が進める日中韓青年ネットワーク構築事業の一環として2012年から毎年開催され(コロナにより20~21年は中止)、文化交流活動を通して若者同士の信頼を構築し協力の基盤を固めることを目的としています。
今年度は新羅時代の遺跡が残る文化都市慶州で開催され、協力活動のアイデア発表や日中韓協力事務局長オウ・ボツセンさんをはじめとする3国関係の専門家による講演、慶州文化視察などのプログラムが用意されました。
日中韓3か国は、様々な利害を共にする隣国であるにも関わらず、よく知られている通り関係が良いとは言えない状況にあります。歴史や領土、文化の起源などを巡る対立が続いていることに加え、国家レベルの対立にとどまらず、国民同士の嫌悪感の増大も問題となっています。外交キャンプへ参加し、日中韓関係の今と未来について考えてみました。
3国の国民同士で外交問題、歴史問題について話す機会の必要性
今回のイベントで、少し残念だった部分があります。「外交キャンプ」と名前がついているにも関わらず、韓国や中国の学生と外交問題について深く話すことができなかったことです。筆者は3国協力を促進するためには各国の間に横たわる葛藤の克服が必要不可欠だと考えているため、このキャンプでは、中韓の学生が外交問題に対しどのように考えているのか直接聞き、どうすれば解決できるかについて意見を交わしてみたいと思っていました。
しかし、蓋を開けてみるとほとんどの参加者が意図的に厄介な問題について話すことを避けていました。交流を通して仲が深まったのに、琴線に触れる問題を持ち出して気まずくなってしまうのが怖いという思いがお互いにあったからでしょう。筆者のグループの韓国人学生は、討論の題材を選ぶ際に「政治問題は敏感な案件だから違うテーマにしよう」と口にしていました。3国協力のアイデアを発表した際に、領土問題に少しだけ触れたグループもありましたが、言葉を慎重に選んでいるように見えました。外交に関心がある学生同士の集いでも、国家間の対立について率直な意見を語り合うのはハードルが高いということです。
3国間の文化的な交流は活発に行われているものの、外交面の課題については国民同士が直接会話できる場所はとても少なく、お互いに安全な場所に身を置いて相手を批判、または誹謗中傷するだけの状況が続いています。しかし、国家間の葛藤から国民が目を背けていては解決の糸口は見つからないと思います。特に歴史問題や領土問題は、相手の立場の理解なしには絶対に解決できません。
例えば、竹島・独島問題について、日本人は「竹島は日本の領土で韓国人は嘘つき」だと、韓国人は「独島は韓国の領土で日本は略奪者」だと主張しがちですが、冷静に相手の主張を聞いたことはあるでしょうか。筆者は、双方の主張について調べたことがありますが、専門家でもない一素人が即断できる問題ではないと感じました。日本の領土であるという文献が存在する一方で、韓国の領土であると読める文書などもあるからです。自国の政府の主張を信じ込み、竹島・独島は自分たちのものだと主張することは自然かもしれません。しかし、相手の言い分や論拠に一切耳を貸さず、罵るだけでは何も解決できないと思います。国民同士で対話できる場の必要性を強く感じました。
歴史に対する捉え方の違い
キャンプ3日目、東北アジア歴史財団のチャ・ジェボク研究委員による東北アジア国際情勢と3国協力に対する方向性についての講演を聞きました。その中で印象的だったのが、韓国国民が日本の憲法9条改正の動きに強い拒否感を感じているという点です。両国は民主主義という価値を共有し、北朝鮮の脅威など、安全保障面での利害も一致しています。実際に9条改正を実現すべきかどうかは一旦置いて、日本が憲法上に自衛隊を明確に位置付け、自衛のための戦力強化を進めることが韓国に不利益をもたらすでしょうか。では韓国が強烈に9条改正に反対する理由がどこにあるのか疑問に感じ、質問してみました。
チャさんによると、韓国が日本の軍備力増強に強く嫌悪を感じる理由は、過去に起こった侵略行為が繰り返されるかもしれない恐怖心だということです。日本による韓国併合の20年ほど前に大日本帝国憲法が制定された歴史から、憲法改正に敏感になっている側面もあるそうです。チャさんは、日本人がそのような疑問を持つことは当然だが、私たちの恐怖心も理解してほしいと語っていました。現実に迫る脅威よりも、過去にとらわれてしまう。それほどに、植民地支配は韓国人にとってトラウマとなっているということでしょう。現実的に協力を行う上でも歴史認識の違いが想像以上に大きな障壁になっているということを改めて感じました。
外交キャンプを通して、各国に3国間協力を模索する若者がたくさんいることや、国家レベルでも3か国協力の枠組みが形成され、活発に運用されているということを知ることができました。簡単に問題が解消することはないですが、悲観しすぎず、今後も互いの未来のためにできることを考えていきたいと思います。
参考
11月26日付 読売新聞オンライン「元徴用工訴訟 審理再開へ…新判事 日韓交渉に配慮姿勢」
11月22日付 日本経済新聞電子版「防衛費増額、海外識者に聞く 有識者会議が報告書」
2016年7月11日付 日本経済新聞電子版「中国、日本の改憲警戒 韓国は対話姿勢維持」