注目集まる昆虫食 普及なるか

先日、無印良品で買い物をしていた際、レジ横に並んでいたコオロギを使ったお菓子2品に、つい手が伸びてしまいました。ロシアとウクライナの戦争や世界規模での人口増加など、これから来るであろう食糧危機を前に、世界では食料としての虫に注目が集まっています。

 

(2020年から無印良品で発売されているという。)

実際に筆者も購入して食べてみました。まずは「コオロギせんべい」。見た目は少し緑がかっています。味はというと、パッケージに「エビのような香ばしい風味が特徴」とあるように、ほとんどえびせんべいと変わりません。強いて言えば、えびせんべいの方が後味が強いように感じました。「コオロギチョコ」はオレンジ果汁が入れられていて、爽やかさが感じられる味です。言われなければ虫が入っていることに気づかないでしょう。

(コオロギせんべい)

なぜ昆虫食が注目されているのか

2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が「Edible insects(食用昆虫)」という報告書で、食糧問題への対策として虫を食料や家畜のエサにすることを推奨しました。これをきっかけに、世界中で昆虫食に関心が集まりました。

昆虫食にはいくつかのメリットがあります。まず、高たんぱくという特徴を持っています。動物性たんぱく質の含有率は牛肉が17%なのに対し、昆虫は80%(製粉すると約68%)と非常に高いのです。実際に、ほとんど味の変わらないえびせん(ブルボン、プチシリーズ)とコオロギせんべいを比較すると、10gあたりのたんぱく質は前者が0.13gだったのに対し、後者のコオロギせんべいは0.9gと圧倒的です。

また、牛のゲップによってメタンガスが出ることがしばしば問題になるように、食肉の生産では温室効果ガスが出ますが、虫であれば排出を防ぐことができます。そして、昆虫の採集や養殖ならば、農地や飼料を牛や豚などの家畜ほど必要としません。土壌の保全になるだけではなく、コストがかからないため、発展途上国でも昆虫食ビジネスに期待が寄せられています。

こういった昆虫食の利点は、SDGsとも密接な関わりを有しています。高たんぱくという特徴はSDGsの17の目標の「飢餓をゼロに」に該当します。他にも、温室効果ガスをあまり排出しない点は13番目の「気候変動に具体的な対策を」に、土地保全では15番目の「陸の豊かさを守ろう」、昆虫の養殖という新たな農業が生み出されれば1番目の「貧困をなくそう」に合致すると考えられます。

食文化として根付く昆虫食

「虫を食べる」というと、なんだかゲテモノ料理を食べているかのような気がしますが、そんなことはありません。タイやベトナムの東南アジアや中国では虫を食べる文化があります。

実は日本でも、そういった食文化がないわけではありません。いなごの佃煮は長野の郷土料理として親しまれており、缶詰などで売られることの多い蜂の子は高級珍味として取引されています。案外、私たちが思っているより、虫は食文化の1つとして根付いているのかもしれません。

昆虫食の持つハードル

FAOの推奨もあり、注目が集まっている昆虫食ですが、野菜や食肉のような環境整備が追い付いていないのが現状です。消費者庁が義務付けるアレルギー表示には虫は含まれていません。しかしながら、昆虫はエビやカニなどの甲殻類と似た成分が含まれているため、アレルギーを引き起こす危険性があります。今後、普及していくのなら、企業の自主努力ではなく法律で表示を義務付けることが必要になるでしょう。

(無印良品のコオロギせんべいにもこのような注意書きがされていた。)

いくつかの宗教では口にして良いものが限られるため、全員が全員、昆虫食を食べられるというわけでもないでしょう。例えば、ユダヤ教には「コーシャ」と言われる食べ物に関する教えがあり、ほとんどの昆虫を食べてはならず、イナゴやバッタなどごく一部しか許されていません。また、インドで信仰されるジャイナ教では、不殺生を教義の軸とするため、卵も含め一切の肉食が禁止されています。厳格な教徒は、はちみつも口にしないことから、おそらく昆虫食も食べることができないと思われます。

 

とはいえ、日本国内では昆虫食を売る自販機や昆虫を使った料理を出すジビエ料理のお店もあるようです。2050年には世界人口が100億人になると予想されており、昆虫はそう遠くない将来、人類の救世主かもしれません。

 

参考資料:

Muji、「コオロギが地球を救う?

ブルボン、「プチえび

国際連合食糧農業機関、「昆虫の食糧保障、暮らし そして環境への貢献度

オオニシ タクヤ、「動物性タンパク質源である昆虫食のエネルギー的可能性

Wikipedia、「カシュルート

TAKEO online store、「昆虫食の安全性とアレルギーについて

 

参考記事:

朝日新聞デジタル2022年11月13日配信、「月120万匹のコオロギ生産拠点も じわり東北で広がる昆虫食ブーム