11月13日、筆者が通う明治大学中野キャンパスでは「ダイバーシティフェス」が開催されました。中野区を中心に、高齢者介護や障がい者福祉、性的マイノリティの課題解決に取り組む団体が講演や体験型イベントを開き、各分野に対する認知の拡大を図りました。当日はご高齢の方から幼稚園児まで幅広い年代の方が参加し、活気のあるイベントとなりました。
様々ある催しの中で筆者が最も関心を持ったのは、トランスジェンダーに関するものです。こころの性別とからだの性別が一致していない人たちのことです。生まれたときの性が男性で、性自認が女性の人は、トランスジェンダー女性、その逆をトランスジェンダー男性と呼びます。大阪市で行われた調査によると、LBGTA(Aはアセクシャル、無性愛者のことを指す)の割合は3.3%、その中でトランスジェンダーは全体の0.7%と、ごく少数です。イベントの中で、当事者のトランスジェンダー男性は、周りに同じ境遇の人がいない孤独な状況が何よりも辛かったとおっしゃっていました。
トランスジェンダーは、世界的に差別や迫害の対象になっています。2020年、アメリカでは41名のトランスジェンダーの人々が殺害されました。また、講演されていた方によると、昨年は世界で375人が殺されたそうです。日本では、殺人事件で亡くなった方はいませんが、自殺する人は少なくありません。時事通信によると、15~17歳の6.8%が自殺を試みたことがあるそうです。これは、同性代の約5倍の数字です。
こうした自殺傾向の強さは、周りに同じ境遇の人がなかなかいないことや、いじめ被害に要因があります。マイノリティであるがゆえに特異な目を向けられ、いじめられてしまうのです。
日本は昔から、性の多様性を尊重する土壌があったのではないでしょうか。日本史における最初のトランスジェンダーといえば、平安時代後期の『とりかへばや物語』が思い浮かびます。そこでは、男児が姫君として、女児が若君として育てられます。最後に登場人物がもとの性別に戻ってしまうため、厳密にはトランスジェンダーとはいえないかもしれませんが、室町時代の『心蔵人物語』でははっきりと別の性別への羨望が示されています。ここでは男性の姿になり走り回りたいと願っている女性が、男装し帝の寵愛を受けるようになります。その他にも、紀貫之が当時は女性のものとされていたひらがなで『土佐日記』を書くなど枚挙に暇がありません。
江戸時代では男性であるのに女性として生活していた人が、現代のような偏見を受けることなく生活していたという研究も存在します。この時代はトランスジェンダーに限らず、現代で言うところの性的少数派を受け入れる社会であったようです。陰間茶屋と呼ばれる性風俗店は、可愛らしく着飾った男性が同性を相手に性的サービスを与える男色に特化した性風俗店でした。当時で言う吉原のような遊郭にも匹敵する高級店だったようで、盛況ぶりがうかがわれます。このような、研究は書籍やネット上に多く存在するので興味がある方はぜひ検索してみてください。
かつては身近なものとして受け入れられていた性的少数派が、なぜ現代では特異なものとして見られているのでしょうか。答えはわかりませんが、一つ言えることは近年の性的マイノリティに対する偏見や差別は、決して本能的なものではなく、社会的な文脈のなかで形作られたということです。正しい知識と他者への配慮や想像力さえあれば差別は少なくなり、トランスジェンダーが自殺を考えるような悲劇も少なくなるのではないでしょうか。
まずは正しい知識を得ることから始めましょう。11月20日の日曜日はトランスジェンダー追悼の日です。殺害された人々を追悼する目的で作られました。2020年には現米国大統領のバイデン氏も追悼に加わりました。日本では新宿2丁目を中心にイベントが開催されます。筆者も当日はゲイの友人と話を聞きに行く予定です。
参考記事
読売新聞オンライン「トランスジェンダー社員に上司「戸籍の性別変更を」…「SOGIハラ」でうつ病、労災認定」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20221108-OYT1T50284/
参考資料
Medical Note 「トランスジェンダーの概念はなぜ生まれたか―性同一性障害の歴史的背景」
https://medicalnote.jp/contents/151005-000005-XAEUXT
「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チーム 「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」
板坂則子 朝日新聞出版 『江戸時代 恋愛事情』