朝鮮半島 統一は実現するのか 統一部長官・次官の講義から

北朝鮮の最高人民会議は今月8日、核保有国であることを正式に宣言する核武力政策法を採択しました。この法令により、これまで報復のみに限定されていた核兵器について、先制使用も可能になりました。金正恩総書記が北朝鮮に安全保障上の危機が差し迫っていると判断した場合、実際に自国に対する攻撃があったかどうかに関わらず核兵器を行使できるようになったということであり、韓国や日本にとって非常に大きな脅威であると言えます。

筆者は交換留学先で「統一を共に作ろう(통일함께만들기)」という授業を受講しています。南北統一問題の専門家によるオムニバス形式の授業で、現在まで元統一部長官で漢陽大学教授のホン・ヨンピョ氏、現統一部次官のキム・ギウン氏、チョン・ヘソン氏による講義がありました。北朝鮮が軍事力を増強し、非核化を目指す国際社会との溝が深まる中、分断の当事者である韓国は南北関係についてどのように考えているのか、講義の内容を参考に考えてみます。

韓国における統一問題への関心は今も高い一方で、統一を望む声は徐々に小さくなってきています。2021年にソウル大学平和研究院が行った調査では、統一が必要だという回答は2007年の調査開始以降で最低の44.6%という結果になりました。

韓国内での統一に対する意見の対立、いわゆる「南南葛藤」が生まれやすい要因の一つが、民族としての利益と国家としての利益が相反している南北関係の特殊性です。朝鮮民族としては交流や協力を進めて最終的には統一するのが望ましい反面、国家としてはお互いが自国の存亡を脅かす存在です。韓国にとっては核開発、北朝鮮にとっては米韓軍事演習などが脅威と言えるでしょう。

分断前の時代を知っている人々、ルーツが北朝鮮にある人々などが自分たちは一つの民族であり、必ず統一を成し遂げなければならないと考えるのに対し、若い世代は民族ではなく国家に帰属意識を感じており、民族がなんだ、韓国は韓国、北朝鮮は北朝鮮だと主張します。

民族と国家の対立は北朝鮮にも存在します。金日成、金正日両氏が分断と戦争を直接体験し、統一への思い入れが強かったのに対し、現在の最高指導者の金正恩総書記は朝鮮戦争後に生まれ、南北が一つだった時代を知りません。このため、民族よりも国家を守ることを重視する傾向があります。

統一部次官のキム・ギウン氏によると、統一問題を考えるためにはお互いが統一しなければならないという考えを持ち、憎み合わない前提が不可欠だということです。しかし、双方において統一への熱気が薄れ、韓国においては核開発を続ける北朝鮮に対する恐怖、嫌悪感が広まる中、統一への道筋が見えづらくなっています。

韓国の立場は朝鮮半島で戦争を起こしてはならず、武力による統一に反対するというものです。しかし、それは武力を放棄するということではありません。韓国が南北で信頼関係を築いた後に軍備を減らしたいと考え、当面は米韓同盟を中心とした安全保障に力を入れるのに対し、北朝鮮はまず刀を降ろしてこそ信頼を築き対話をすることができると考えています。このため、譲歩点が見つからず、軍事力を盾にした緊張状態が続いてしまっています。

韓国は核開発問題だけはなんとしても解決しなければならないと考えており、核兵器を開発し続ければ北朝鮮は終わりだという姿勢を見せ、使うことができない状況を作ると同時に、核を捨てさえすれば人道的、経済的支援を行う準備があるということを示し続けてきました。その結果、一度は核施設の破壊などの動きも見られましたが、現在は再び核開発やミサイル発射に力点が置かれ、朝鮮半島非核化への道のりは遠いものとなっています。

ここまで国民意識、国防という観点から南北関係について見てきましたが、現実的な側面から考えて統一が成し遂げられた場合にメリットは存在するのでしょうか。

統一反対派が主張する一番大きな理由は、費用問題です。南北間で経済格差が拡大してしまっている中で統一を強行すれば、韓国側の費用負担が大きくなることは間違いないでしょう。また、分断されていた国民同士には互いを異質な存在とみる心理的な問題も考えられます。

とはいえ、統一が実現されれば、利益も間違いなくあります。例えば、国防費を相当減らすことができます。韓国の男性にとって大きな負担となっている兵役も廃止、または軽減することができるかもしれません。分断によって両国民がいつも感じている戦争に対する恐怖もなくなるでしょう。また、社会問題である就職難や失業率も、統一によって開発が進めば改善が見込まれます。

統一問題の解決には、もちろん韓国、北朝鮮両国の努力が必要であるのは間違いありませんが、それ以上に重要なのが世界情勢です。仮に南北が動きだしたとしても、現状ではアメリカは韓国を、中国は北朝鮮を維持させようとすることが予想されるため、実現は難しいでしょう。南北統一問題は、当事者同士の問題であると同時に、国際社会全体が真剣に向き合わなければならない問題です。

 

参考

26日付 朝日新聞デジタル 「北朝鮮、短距離弾 米韓を牽制か 日本海へ1発」

26日付 朝日新聞デジタル 「(記者解説)北朝鮮核開発の20年 緩んだ包囲、日米間の連携最強化を 編集委員・坂尻信義」

25日付 読売新聞オンライン 社説「北朝鮮の核政策 日米間の抑止力強化が急務だ」

 

9日付 ハンギョレ新聞「金正恩が法で明らかにした『核使用5大条件』とは」

ソウル大学統一平和研究院 2021統一意識調査

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