筆者は現在、地元長崎に帰省している。若者の県外流出による人口減少など地方特有の問題を抱える我が故郷は、この秋、大きな転換点を迎えようとしている。
9月23日、西九州新幹線「かもめ」(武雄温泉ー長崎)が開業する。残念ながら乗り換えなしで福岡まで行くことができるフル規格ではないものの、博多ー長崎間を現行より30分短い、1時間20分で結ぶ。
長崎では新幹線によって、従来より県外とのアクセスが良くなり観光、経済面で期待が高まっている。長崎駅周辺は再開発が進み、ホテルなどがオープン。駅のすぐ隣には、地元の飲食店や名物が集まった観光施設「長崎街道かもめ市場」がオープンし、まもなく新たな駅ビルも完成予定だという。新幹線開業は観光、街づくりや地域振興の大きなチャンスとなる。
長崎県によると、20年の県内の観光客数はコロナ禍により、約1900万人と前年から45%も減少した。県は、西九州新幹線の開業効果として、関西や中国地方などからのJR輸送人員が25年度に15%増加(21年度比)することを目指す。(9月15日付読売新聞オンライン)
確かに、長崎県の産業として観光は大きな柱となっている。出島や中華街に代表される、さまざまな文化が入り混じった街並みやちゃんぽん、カステラといった食べ物。被爆地として平和を学ぶ場もあり、多くの観光スポットに溢れている。実際、街に出てみると多くの修学旅行生の姿が見られる。東京の大学に通う友人たちに聞いても、修学旅行の行き先が長崎だったという人は多い。
しかし、観光地として知名度があり、本当に魅力的な場所として捉えられているのか。今回の新幹線開業を機に改めて見直す必要があるのではないか。県庁所在地である長崎市を例に考えてみる。昨年、長崎国際観光コンベンション協会が国内の旅行者千人に行ったブランド調査では、長崎市への訪問経験者は5割以上いたものの、「再訪問したい」と答えた人は半分以下という結果になったという。また、同協会が3年以内に国内宿泊旅行をした全国の千人を対象にした調査でも訪れたことがある人の割合は半数を超えたものの、再訪の意思については下回っていた。その理由として「距離が遠すぎる」が多く、「見るべきところがなさそう」、「のんびりくつろげる観光地ではなさそう」などが挙げられていたという。多くの人が修学旅行などで訪れていながらリピーターになっていない現状や、観光資源が豊富であるにもかかわらず、それが浸透しておらず生かしきれていないという課題がある。
実際の旅行者や県外の人の声を多く聞く必要があるのではないだろうか。その地に住んでいる人たちと、県外の人たちが考えるイメージは異なる。上記の調査では長崎市をイメージさせるものとして「ハウステンボス」が上位にあがっていた。実は長崎市ではなく、県北部の佐世保市にある。上京して、出身を長崎だと話すと多くの人が「ハウステンボスがあるとこね」と言ってきた。長崎の人が考える観光地より「ハウステンボス=長崎」の認識が強いのだ。こういったその土地と外の人の間の認識の違いは、もっと多くあり大きいのではないだろうか。積極的に県外の人の意見や声を取り入れ、新たな魅力に気づくための、いわば他己分析が必要だ。
せっかく多くの学生が訪れてくれているということを無駄にして欲しくない。大学生になってから、社会人になり家族ができてから、退職して時間ができたから。人生のさまざまな場面でまた行ってみようかなと思ってもらえる土地であって欲しい。
徐々に観光産業がコロナ以前のように戻り始めた今、長崎に限らず多くの観光地が新たな魅力を発見、発信し、多くの訪問客で賑わい地域に活気を与えていってほしいと思う。
参考記事:
9月15日付読売新聞オンライン「西九州新幹線「かもめ」、9月23日はばたく」
https://www.yomiuri.co.jp/hobby/travel/ryokou-select/20220909-OYT8T50017/
2021年11月10日付長崎新聞「『長崎市、再訪したい』43% リピーター獲得が課題」
https://nordot.app/830972272335388672