2023年4月に中央大学法学部が茗荷谷キャンパスへ移転します。中大法学部に在籍する筆者からすると「都心の中央大学」と聞くだけで、形容矛盾のような違和感を覚えてしまいます。
中大、都心回帰のワケ
なぜ45年もの間、慣れ親しんだ八王子多摩キャンパスを離れ、文京区の都心キャンパスに移るのでしょうか。中大はかつて全ての文系学部が神田・駿河台に校舎を構えていました。大学の新設・増設を禁止する「工場等制限法」の制定や60年代後半の学生運動の影響を受け、文学部を皮切りに1978年には全ての文系学部が現在の多摩キャンパスへの引っ越しを完了させました。しかしながら、郊外への移転は受験生には不評で、結果的に入学希望者の減少や偏差値の低下を招きました。2002年に工場等制限法が廃止されたこともあり、都心回帰の機運が高まっていったのです。
都心で期待できること
法学部が移る茗荷谷はアクセスに優れ、東京、新宿、渋谷といった主要駅に10~20分で移動できます。交通面での利点はそれだけではありません。多くの中大生は多摩キャンパスへ通うために、多摩モノレールを利用しています。沿線には中大の他にも明星、帝京などの大学があり、たった4両の車体では通勤通学の学生数をこなしきれません。実際に、筆者が利用している多摩センター駅では、毎朝のように定員オーバーでの改札の一時閉鎖、エスカレーターの使用停止が繰り返されていました。
都心のキャンパスでは後楽園や御茶ノ水などに多くの大学が立地し、大学を超えた交流も可能になると思われます。交通網が発達しているため、多摩モノレールのような混乱はありません。
現在の中大生の遊ぶ場所としては多摩センターや立川が中心で、中大生ばかりの集団が飲んでいる光景を見ますが、都内へのアクセスが良好な茗荷谷なら、他大学の学生と放課後に交流することも容易になるでしょう。さらに大学当局は、学内の連携を強めたいようです。現在、中央大学のロースクールは市ヶ谷に置かれ、法学部とは遠く離れています。2023年の学部移転に合わせ、大学院もかつて学部キャンパスが置かれた駿河台への移転計画を進めています。学部3年+大学院2年で司法試験合格を目指す法曹一貫教育プログラムが設置されたこともあり、学部と法科大学院の連携を強化する思惑もあるのでしょう。
郊外の利点
都心では、遊ぶ場所も美味しいごはん屋さんも充実しています。そこに魅力は感じるものの、「来年も多摩キャンに居続けたいなぁ」なんて思ってしまいます。確かに、八王子は都心に比べ刺激が乏しいかもしれません。ですが、都会の喧騒にまみれず、自然に囲まれた過ごす学生生活も悪くありません。
文系の中心としてキャンパス自体も発展しており、2021年に学部共通棟として竣工された「FOREST GATEWAY CHUO」、中央図書館、空きコマに映画を観ることのできる映像資料室など魅力的な施設が集中しています。茗荷谷への移転により、それらの恩恵が受けられなくなってしまうのは残念です。また、「郊外型キャンパス」の先駆けと言われることも多く、構内で満足できる学生生活が送れるよう、学内に美容室を併設したり、学食を充実させていたりします。
来年から茗荷谷に通う法学部生として思うこと
多摩キャンパスへの未練もありますが、新しい校舎に最初に足を踏み入れることができるのは楽しみです。では多摩キャンパスに残された法学部棟や、司法試験・公務員試験を目指す学生が勉強にいそしむ学生研究棟「炎の塔」はどうなるのか、疑問は残ります。筆者は来年には4年生のため、新キャンパスで学ぶのは1年間だけです。そのため、どこか他人事のような気持ちでいますが、半分以上を茗荷谷で過ごす後輩たちは、新たな下宿先探しなど、忙しそうです。この都心回帰が将来の成果につながることを願うばかりです。
参考資料:
中央大学、「中央大学法学部1~4年生が2023年4月から茗荷谷キャンパス(文京区)に移転 ―新キャンパスで始まる新時代の法曹養成―」、2021年
参考記事:
5月15日付朝日新聞デジタル、「獲得競争激化、相次ぐ大学の都心回帰 学生、多摩では『距離がある』」