直接会って聞きたい 街頭演説の力

安倍晋三元首相が銃撃されてから1か月余が経ちました。筆者は奈良から大阪に移動する途中に、事件現場を訪れました。現場そばの大和西大寺駅は、近鉄の乗換駅として多くの利用客でにぎわう駅です。

遊説中に倒れた地点の近くには、線香やコーヒー、花が手向けられており、次々と手を合わせていく人がいます。中にはスーツケースを手にした人もおり、帰省や観光の中で立ち寄った人が多い印象です。ロータリーの交差点近くにあることから、立ち止まらないよう呼びかけ、献花の自粛を求める張り紙がされていました。

 

献花の自粛を求める張り紙(大和西大寺駅北口付近で15日、筆者撮影)

 

事件の背景や警備体制への追及が深まるなかで、有権者と距離が近い日本型の選挙運動のあり方にも注目が集まっています。候補者が路上で演説をすることがない国もある一方で、行き交う人と握手をして直接投票を求めるのが当たり前の国もあります。これまでの日本は後者でした。実際、2021年の衆院選で、各党トップが来る街頭演説に行った際も、自民の岸田首相、立民の枝野元代表と「グータッチ」をすることができました。

 

JR南浦和駅付近でグータッチをする岸田首相(筆者撮影)

JR浦和駅付近でグータッチをする枝野元代表(筆者撮影)

 

1つの党をまとめる代表や幹部の演説は、政策全体を見据えた内容で聞き入るものがあります。聞きに行った演説でも、最前列で聞くために1時間以上前から待っている人がいたほどです。帰宅時間帯に行われたものでは、駅から出てきた会社員が足を止めている様子も見ました。政党の方針を代表から直接聞くことは、有権者の判断に大きな影響を与えるでしょう。

得票に結びつく要因は演説の内容だけではないようです。6月30日付の朝日新聞には、顔の魅力度が上がると得票率が増えるという拓殖大の研究結果が紹介されていました。顔の好みは人によって異なりますが、政治家の顔を直接見る機会としても街頭演説は役立っているのかもしれません。

 

安倍元首相の銃撃事件により、街頭演説のあり方も見直しを迫られています。有権者と近い距離で訴える選挙運動は、とりわけ著名な政治家にとってリスクになる行為です。それでも、政治家が目指す目標を肉声で語る街頭演説はあり続けて欲しいと思います。

 

事件現場となった近鉄大和西大寺駅北口付近(15日、筆者撮影)

 

参考記事:

8月15日付 朝日新聞夕刊 6面 「ハリス氏、安倍氏国総参列へ」

7月9日 朝日新聞デジタル 「日本の「有権者と近い」選挙運動、安倍氏銃撃で変化も=海外専門家」

6月30日付 朝日新聞夕刊 11面 「(#ニュース4U)候補者の見た目、気になる?」

 

参考資料:

尾野・浅野(2020) 「なぜ顔の美醜が重要なのか? 候補者の外見と選挙」