昨日の読売新聞朝刊に、「秋の読書月間 業界一丸P R」という記事がありました。全国の出版社や書店などが参加し、長期にわたって本の魅力を発信する取り組みです。期間は10月27日から11月23日まで。「読書週間」など、例年行われた活動と連携し、長期の活動を見込んでいます。
出版不況や街の書店の減少が叫ばれるなか、本の面白さ、楽しみ方を伝えることは最も重要なことだと思います。
本の良さとは何か。単純にそのストーリーを楽しむ、登場人物の感情に触れる、知識を得たり著者の考え方を知って学んだりする。一冊の本を読むだけで、現実ではできない経験をした感覚になれたり、誰かの人生を追体験できたりするのがその魅力ではないでしょうか。
一方で、その身についた知識、経験を目に見える形で感じにくい、数値化できないのが、読書であるとも考えます。小説やエッセーは特にそうです。現代の情報化社会で生きる人々は、限られた時間の中で、自分に必要な情報を得たい。できるだけ早く正解や、役に立つ情報を知りたい、そんな感覚が強いのではないでしょうか。ネットフリックスなどで、映画やアニメを早送りして観る。情報収集は簡単でわかりやすくまとまっているサイトやS N Sで。大量の文章をなぞり、文字に書かれていない行間を読み取りながら、じっくりと向き合う読書という行為は時間をかけただけの、対価を得られた気がしない、「タイパ」が悪い行為なのかもしれません。
記事では、都内の高校教員の方の「高校の国語教育は現在、自分の意見をまとめ、話すことが重視され、読解が疎かになりがちだ」とのコメントがありました。小説ではなく、実用的な文章を読み、社会に出たときに使えることを学ぶ。これもある意味で、情報化社会において、効率よく生きていくため、タスクをこなしていくための技術を学ぶためなのかもしれません。
出版業界が本の魅力を伝えていくには、効率やタイパとは異なる時間の使い方があること、じっくり物語や文章と向き合うことで身につくものの素晴らしさを伝えていかなければいけないと思います。
自分の考えをまとめる、話すといったアウトプットを行うためには、これまでの自分の経験、学んだことなど大量のインプットがあってこそだと思います。就活中、作文試験の練習を元新聞記者だった方に見てもらったことがあります。「君はよく本を読んでいるでしょう。文章や言葉の選び方からよく感じる」といってもらえたことがありました。
採用試験に限らず、文章を書いたり、人前で話をしたりする機会は誰にでもあると思います。その時に何を言うか、どんな言葉を使うかはこれまで自分が触れてきた言葉や体験から出てくるものだと思います。
テストや資格試験の点数に反映されない、一見役に立たなそうなことこそ、内面を表すことができ、自分を表現する際の手段となると思います。そういった蓄積をする手段の一つとして、本を選び、手にとって読むと言う行為をお勧めしたい。
なんでも効率を求め、簡単に何かをわかった気になれる時代だからこそ、じっくりと文章を読んで考え、ぼんやりと何かを感じ取る必要があるのではないでしょうか。本を読む人も、あまり読まない人もこの秋はぜひ、本屋に行って表紙や題名を見て気になる本を見つけてほしいと思います。
参考記事:
8月1日付読売新聞オンライン「[スキャナー]秋の読書月間、業界一丸PR…出版社・書店が危機感」
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20220731-OYT1T50140/