日本の防衛の選択 平和学の父からの言葉

「NPT会議1日開幕」、「新疆核実験再開の兆候」。8月1日の朝刊には、防衛について考えるべきテーマがいくつも取り上げられていました。先の選挙で、改憲勢力が国会での発議が可能となる定数の3分の2を確保したこともあり、国内でも安全保障に関する議論はますます活発になっていくでしょう。

こういった国際的な流れの中、日本の安全保障にはどのような選択肢があるのでしょうか。様々な意見があるなかで、筆者は2017年に来日した際に平和学の父ガルトゥング氏が語った提言を思い出します。ガルトゥング博士は100カ国以上の国と地域で停戦を実現し、有名な概念である『積極的平和』を提唱しました。戦争暴力の否定という消極的な平和のみならず社会構造に潜む差別や貧困、圧政をも取り除いた状態を追求すべきだというのです。その他にも様々な論考を通じ、私たちに平和をしっかりと考えることを迫っています。

彼の主張での大きな柱に「ジョイント・オーナーシップ」があります。ユニークな視点ながらも軍事的な緊張を解決する一案といえます。主権を争い合うのではなく双方が主権を放棄して「共同管理」するという視点です。そこで生まれた利益は3割〜4割ずつを両国に配分し、残りの2〜4割を資源保存に充てるというのです。軍事衝突の要因となりがちな領土の権益を巡る争いを止めることができ、日本が抱える領土問題にも有用だとされます。

この方法は、ペルーとエクアドルが成功しています。アンデス山の領土権をめぐって両国間の停戦協定が幾度となく破られてきたことで、54年間も戦争が続きました。現在は共同管理の形で解決がなされています。

尖閣諸島 7月29日にも中国海警局の船が領海に一時的に侵入した 5日には64時間余りに渡り侵入を行った 内閣官房領土・主権対策企画調整室より引用

続いての主張としては「専守防衛の明確化」があります。日本では武装、非武装、核の保持といった議論に分断されることが少なくないですが、攻撃的兵器と防衛に特化した兵器の区別が曖昧だと指摘しています。このため無意味な軍拡競争につながる危険性があるのです。長距離の射程を目指し、他国を攻撃する能力をもった兵器を準備するのではなく、十分な防衛力を持ちながら、他国への先取攻撃を行わない軍備は可能だといいます。その方向に舵を取っていくには有識者や政府が攻撃的兵器とディフェンシブな兵器を混同することなく、適切な説明を心がける必要があるといいます。

平和学の父からの日本への提言を、皆さんはどう聞きますか。現実離れした楽観論だと思いましたか。非暴力的な国防は可能だと思いましたか。

核抑止論を現実的な対策だと唱え、非武装化をおとぎ話だと揶揄する者もいます。もちろん、「日本を攻撃するだけのメリットがない」、相手にそう思わせるだけの実力を備えることは国家の自立を守るうえでは欠かせません。ですが、核兵器を持った国の周辺が次々と核を持つ核ドミノ現象が示す通り、明白な攻撃力を持った兵器を過剰に装備することは、攻撃の意思があると受けとめられ、一触即発の緊張状態を自国周辺に生み出す要因ともなり得ます。十分な防衛力があり、かつ他国との不信を誘発しない防備という究極の一線を見極めなければなりません。

多くの先例に目を向け、国家間のパワーバランスを見極めることで適切な着地点は見つかるのではないでしょうか。あくまで目ざすのは国家と国民の安全です。この点は、いかなる防衛論の提唱者も共通して掲げる目標です。過剰装備ではない形での適切な国防の水準を見出すためには、国の主権者として私たちが知識の土台を踏み固めていかなればなりません。

【参考記事】

読売新聞8月1日付朝刊 1面NPT会議1日開幕

日経新聞8月1日付朝刊 1面新疆核実験再開の兆候