七夕の夜、理学部生と星空観察

参院選も間近。マスコミで働いている先輩たちは、選挙の動向を探る取材でかなり忙しそうだ。就職したら、ゆっくり空を見上げることもないのかなぁ。ふとそんな気がしたので、七夕の夜、星空を眺めることにした。

天体観測が趣味の理学部の友人に色々教えてもらった。福岡市の中心地から西に20kmほどの九州大学伊都キャンパス。街の照明で夜空が明るくなり星空観察に支障をきたす「光害」はあまりひどくはないが、それでも真っ暗に越したことはない。そこで大学の運動場近くの駐車場まで移動した。

新型コロナによってロックダウンをしたイギリスでは光害が減り、星空が見やすくなったとの報道がある。ただ、日本ではそのような都市封鎖はなかったため、「コロナの前後であまり変化は感じない」と友人は言う。

天頂方向を眺める。写真ではわかりにくいが夏の星座が頭上を埋め尽くす(7月7日21時54分、九大にて筆者撮影)

宇宙の話になると、それぞれの星までの距離がすさまじく遠いため、物差しに「光年」という単位が用いられるのはご存知だろう。光は1秒間に地球を7周半するほどの速さであるため、1光年は約9兆5000億kmである。

太陽を1年かけて公転する惑星系が太陽系であり、地球はその一つに過ぎない。太陽系は天の川銀河の中に位置しており、銀河の直径は10万光年と言われている。想像がつかないほどの大きさだ。

七夕の日の彦星、正式名称はアルタイルという。身近な星の一つだが、地球までの距離は17光年以上ある。「自分がほぼ光の速さで動けるとして、幼稚園の時に地球を出発していれば、そろそろアルタイルに着くころかな?」と私。「うん、でも相対性理論があるから、まだ大学生になってないやろうね」と友人。「あ、確かに!」。この会話、異次元すぎて楽しい。

夏の大三角形を形作るのは、ベガ、アルタイル、デネブの3つの星だ。うち、ベガ(織姫星)とアルタイル(彦星)が七夕伝説に登場する。織姫と彦星が結婚後、天帝によって天の川の両岸に引き離されたことは有名な話であるが、実は位置関係はそんな単純なものでもない。ベガやアルタイルは銀河系の中ではかなり地球に近い星だ。デネブは少し離れて約1800光年。一方、銀河の他の星々(天の川)の多くはそれらよりもはるかに遠い。それでも、地球から肉眼で見ればそのような立体的な位置関係は分からず、平面的にベガとアルタイルの間を天の川が流れているように映るため、あの有名な七夕伝説が生まれた。また、ベガとアルタイルの間の距離は約14光年であるから、両者が極めて速いスピードで動かないと、7月7日のうちに会うことはできない点にも注意が必要だとは友人の弁。

 

七夕伝説を科学で否定するという夢のないことをしてしまった。でも、今の科学で分かっていることはかなり限られている。銀河の集まりの銀河群があり、その集まりの銀河団があり、その集まりの超銀河団があるとされているが、規模が膨大すぎて推測の部分も多い。

小学生の時に天体観測にはまった友人。宇宙特有の「手の届かないところの壮大な話」に惹かれるという。そのため、地球の周囲を回っている衛星よりも、遠くの未知の星に興味があるらしい。なんかわかる気がする。

昔から人々は星に思いを寄せてきた。例えば、占星術の歴史は古代バビロニアまでさかのぼる。また、星座はギリシア神話と密接にかかわり、さまざまなエピソードが残されている。科学技術が発達した現代においても輝く星を見て、亡くなった方を思う人は少なくない。

知らないことが多い未知の世界、宇宙。想像の余地が大きいことにその魅力があると思う。

天体観測所の横で星空観察。スマートフォンの夜景モードで撮影すると、街の光に照らされて夜空が明るいことが分かる(7日22時17分、筆者撮影)

参考記事:

読売新聞オンライン 7月7日「七夕の空にくっきり、遺跡見守る天の川」

BBC News 2021年4月6日「Light pollution: How lockdown has darkened our skies」

AERA dot 2019年9月6日「神話の世界を堪能できる秋の星座。アンドロメダ座、ペルセウス座、カシオペア座の物語」