「出かける」と言われると、なんだか遠くに行かなければいけない気がします。夏休みの「お出かけ先」というと、海や山や観光名所でしょうか。
先日の朝日新聞に、東京・新宿東口エリアを特集する記事がありました。東京の人にとっては、わざわざ「出かける」場所ではないかもしれません。ましてや駅や店となると、利用するもの、買い物をする場所という感覚が強いように思います。
私は東京出身ですが、新宿を歩いている時は目的地しか念頭になく、街の風景を眺める余裕がなかった気がします。特に駅に用事があるときは、「何線に乗るから、この入り口から駅に入ると便利だな。ここの人混みを左に抜けなきゃ」といったことしか頭になかったように思います。なにせすごい混雑ですし、地下通路やら歩道橋やら工事による迂回通路やら、街は迷路のようです。慣れるまでは、頭をフル回転させないと目的地まできちんとたどり着けません。
新型コロナの感染拡大が始まって、早2年が過ぎました。緊急事態宣言や外出自粛要請が出されてはいないものの、遠くへ出かけることがまだ少し憚られる時世のような気がします。その一方で、いつも使っている場所の良さを再発見する人が増えていると聞きます。普段は通過点でしかない場所も、ふと足を止めてみると、思いもしない発見があると言うのです。
記事で紹介されていたのは、紀伊國屋書店新宿本店。老舗の本屋さん発祥の地です。1927年の創業以来、新宿の街と共に発展してきました。売り場は、地下1階から8階までの9フロア。別館を含めると、売り場の総面積は約1500坪にもなるといいます。全部の売り場を隈なく巡ったら、半日は過ごせそうです。
本屋を「出かける」場所として捉える発想はなかったなと、気づきました。基本的に、本屋とは書籍を買うために行く場所です。欲しい本や雑誌がなければ、出向くことはあまりありません。時間潰しにふらっと立ち寄ることはあっても、用事がないのに何時間も滞在するのは、珍しいことだと思います。
紀伊國屋本店のような広大な店舗でも、自分が利用するのはごく限られた一部の売り場だけです。フロアマップを調べてみると、本のジャンルによって階が分かれているようです。例えば、コミックは地下1階、文庫と新書は2階、医学の専門書は6階。学校の教科書や辞書は7階です。
私が訪れたことがあるのは、文庫の置かれている2階と教科書販売で利用した7階くらいでしょうか。面白いと感じたのは、階によって客層と雰囲気がずいぶんと異なることです。文庫や新書を扱う2階には、幅広い世代や職業の人々が集います。一方で、7階の教科書を扱うフロアには、制服姿の中高生が多かった気がします。辞書を扱うコーナーが隣接しているせいか、小学生と思われる子供を連れた親子連れの姿が見られたのを覚えています。
忙しい毎日だと、「目的」だけに目がいって、それ以外を忘れてしまいがちです。しかし、目的もなく歩く時間は、一見無駄なようで新たな発見に満ちているのかもしれません。
趣味は何かと聞かれて「読書」と答えていた時期があったくらい、筆者はもともと本が好きです。しかし、最近は大学生活が忙しいことを理由に、本屋に足を運べていません。
筆者の住む札幌には、駅のすぐ近くに紀伊國屋書店・札幌本店があります。ガラス窓から光が差し込み、明るく広く開放的なフロア。太陽の淡い光の下、無数の本が静かに並んでいる店内は、本好きにはたまらない素敵な空間です。店内をより温かい雰囲気にしているのは、手書きの本紹介やコメントでしょうか。書店員の本への想いが感じられる気がして、筆者はとても好きです。もちろん、品揃えも充実しています。2階には、洋書や専門書など他では手に入りづらい書籍も数多く揃っています。しかし、最後に訪れたのは、いつだったか思い出せません。
大学の周辺には、古本屋も点在しています。こちらも、いつか行きたいとずっと思っているのですが、まだ一軒も巡れていません。結局、課題図書を買うためだけに学内にある生協の書籍部に赴き、目的の本を見つけたらすぐに店を後にしてしまうのが常なのです。
最近の筆者は、用事を効率的にこなすことばかりを考えて、ちょっとした幸せを逃しているように感じます。週末にでも、目的を決めずにふらっと本屋を散歩してみようと思います。
参考記事
2日付 朝日新聞夕刊(北海道4版)2面 「ビルの谷間 のぞく遊び心」
参考資料
新宿本店 紀伊國屋書店ホームページ https://store.kinokuniya.co.jp/store/shinjuku-main-store/?type=details