デジタル教材 活用の手がかりは?

高校生のころ、毎日古語と英和の紙の辞書を持ち歩いていました。とにもかくにも、重いのなんの! 「置き勉」が嫌いだったため、必要な教科書をすべて詰め込んだリュックサックはあふれんばかり。20分ほどかけて歩いた駅から学校までの道のりは、無駄に重りを背負ったトレーニングのようでした……。

それでも、紙の辞書が好きでした。慣れるまでは探したい項目を見つけるのに時間がかかるので、調べた言葉自体が印象に残ります。また、マーカーを引いたり付箋を付けたりして、自分なりに記憶に残す方法を探ることもできます。

一方で、パソコンやスマートフォン、電子辞書は(持ち運びが楽チンな上に)とても手軽に調べられます。しかし、すぐに「答え」に辿り着けるということは、それだけ考える時間が短くなるという問題もはらんでいます。

デジタル教育 課題ばかり…?

小中学校や高校の授業では、デジタル教科書や学習用端末を使って児童、生徒が「すぐに結論を出してしまう」ことが問題視されているそうです。読売新聞の4月の連載「デジタル教科書を問う」では、宮沢賢治の童話「やまなし」に登場する「クラムボン」について、考える前に検索してしまった児童の例を挙げています。

GIGAスクール構想に基づいたデジタル教科書や学習用端末の使用は、児童、生徒の学習環境を大きく変えました。この連載では、子どもの興味や関心を引くことができるといったデジタル教材ならではのメリットに言及しながらも、以下のような課題を紹介しています。

  •  授業と関係のない操作に集中し、学習内容が頭に入らない
  •  ネットに気を取られて集中力が低下する
  •  視力が低下する
  •  読解力が低下する
  •  学習以外に端末を使用してしまう

しかし、ここで言いたいのはデジタル教科書の問題点ではありません。デジタル化の波は、もはやどの分野でも止まりません。たとえば本日付の朝刊では、NTT ドコモが2025年度までに全店の3割にあたる約700店を閉鎖し、ネットでの接客拡大を目指すという話題を各紙とも取り上げています。ICT(情報通信技術)教育の強化も、世界の動きに追い付くために、そして子どものころからネットを活用する能力を身に付けさせるためにも、避けては通れない道でしょう。

一人一人に合わせた勉強が可能に

「紙信者」だった筆者にとって衝撃だったのは、先日、中学時代の恩師が教えてくれたことでした。それは「勉強が苦手な子でも、勉強ができるようになる」というのです。先生が着目したのは、AI(人工知能)による苦手分析。自分の課題を見つけることが得意な子がいれば、勉強の方法を見つけることが苦手な子もいます。主体的な勉強が難しい子にとって、学習用端末はとても役に立ちます。間違えた問題の中から AI が一人一人に合わせて不得意な分野を分析し、出題してくれるため、苦手の克服への手順がとても分かりやすくなるのです。

こうしたなかで先生に求められる仕事は、生徒たちに主体的に考える力を身に付けさせること。それはデジタル教材で与えられた問題を解かせることとは矛盾しているようですが、取り組むべきなのは「教師が一方的に話すだけの授業」ではなく「生徒たちと考える授業」への転換といった、教材にかかわらない場面での実践です。また、校外学習の行き先をプレゼン形式で生徒に決めさせるといった、授業とは異なる場での生徒の指導も欠かせません。

GIGA スクール構想についての文部科学大臣のメッセージにも「ICT 環境の整備は手段であり目的ではない」とあります。今必要なのは、すでに挙がっている課題の具体的な解決と、教材のせいばかりにしない指導者の心なのではないでしょうか。

参考記事:

20日付 読売新聞朝刊(13版)25面「学習端末に懸念 鮮明」

参考資料:

文部科学省 GIGAスクール構想 文部科学大臣メッセージ

読売新聞オンライン「デジタル教科書を問う」