日韓関係 新大統領就任で変化は

韓国から5月10日の新政権発足を前に政権の外交方針などを伝える「政策協議代表団」が来日します。3月9日の大統領選挙で当選した尹錫悦(ユンソンニョル)氏は日韓関係の修復に前向きな姿勢を見せていますが、過去最悪とも言われる両国関係は今後どう変化していくのでしょうか。

日韓問題を考える上で外せないのが両国の歴史認識。尹錫悦氏も当選直後の会見で「過去についても真相究明し、双方が整理して解決させなければならない」と述べています。日本は一貫して歴史問題については解決済みであると主張していますが、韓国に一方的に解決を求める姿勢を続けるだけでは状況は膠着したままで、変化は訪れないように思います。

外交上の問題となるのは政府の公式見解ですが、少なからず影響を与えるのが国民の声です。現状、双方の歴史認識は乖離しています。筆者は現在韓国に留学していますが、こちらに来てより強くそれを感じました。

筆者が渡航した直後の3月1日、韓国は祝日でした。1919年3月1日に朝鮮で起こった日本の植民地支配に対する抵抗運動「三・一運動」を記念する日です。記念する催しが執り行われたのはもちろんのこと、Twitterでも「大韓民国独立万歳」、「3.1運動」、「三一節」等のハッシュタグがトレンド入りしました。若者世代を含め多くの韓国人が三・一独立運動に対し強い関心や想いを抱いていることが感じられました。

先日は光州歴史民俗博物館に行ってきました。韓国の南側に位置する全羅南道地方の歴史や民俗に関わる資料を展示する施設です。

朝鮮半島の昔の暮らしや、全羅南道・光州で1980年に起こった5.18民主化運動について学びたいと思いこの博物館を訪れたのですが、想像以上に「日帝強占期(日本支配期に対する韓国での呼称)」に関する展示が多く、衝撃を受けました。

1929年に光州で起こり、三・一独立運動後では最大の抗日デモにまで発展した光州学生独立運動に関する展示や、光州で一番大きい繁華街である忠壯路(チュンジャンノ)の「日帝強占期」の様子など、日本の支配下で理不尽な扱いを受けながらも力強く生きた人々の様子や抵抗を試みた人々の姿が展示されていました。

 

광주학생독립운동「光州学生独立運動」

일제강점기 충장로의 상점「日帝強占期 忠壯路の商店」

 

韓国の人々にとって、日本に併合され、支配下にあった1910年から1945年までは自らの民族が経験した苦しい歴史であり、忘れてはいけないものです。3月1日と同様、日本の敗戦日、すなわち朝鮮の解放日(光復節)である8月15日は毎年太極旗を掲げ盛大に祝うそうです。

では日本人の朝鮮支配に関する認識はどうでしょうか。朝鮮を「支配した」という事実は知っていても、その中で生きた人々の暮らしや日本が実際に行った行為に向き合うことができている人は少ないように思います。「遠い過去に、隣の国で起こったこと」として自らには関係がないと割り切ってはいないでしょうか。朝鮮支配は日本によるものであり、朝鮮の歴史であると同時に日本の歴史でもあるにも関わらず、です。

もちろん、現代を生きる私たちが過去の日本が行った行為について罪を負うことはできませんし、両国間の問題については感情に流されず理性的な議論を行っていくべきだと思います。ですが、歴史を知ることは必要です。過去日本が何をしたのか、朝鮮半島の人々はどのような体験をしたか、それを知らずして日韓関係を改善する道筋を考えることは不可能だと思います。

尹錫悦氏の側近は、「文政権の対日政策は間違っており、今後は関係改善に向けて努力する。ただ、政権交代後も日本側がかたくなな態度を取り続けるなら、我々も手立てがない」と述べています。今後の両国関係が良い方向に動いていくかどうかは、韓国の新大統領だけでなく日本政府、そしてそれを動かす世論にもかかっているのではないでしょうか。

 

参考

4月23日付 朝日新聞デジタル 「『日本と関係改善』動き出す韓国 次期政権の代表団、探り合いの訪日」

3月10日付 朝日新聞デジタル 「『文政権は間違い』日韓関係の改善めざす新大統領 それでも大きい溝」

 

3月11日付 日経新聞電子版 「日韓関係『過去より未来』韓国大統領に尹錫悦氏 対北朝鮮、融和路線を転換」