フランス大統領選 ヨーロッパの行方は

フランス大統領選挙の決選投票が迫っています。投票日は、今月24日。決選投票に臨むのは、現役で中道派のエマニュエル・マクロン氏(44)と極右政党「国民連合」を率いるマリーヌ・ルペン氏(53)です。

最近の世論調査によると、予想得票率ではマクロン氏がルペン氏を上回っているようです。しかし、その差は前回マクロン氏が当選した2017年の決選投票と比べてはるかに小さく、接戦が予想されます。

中道派のマクロン氏が意識するのは環境対策。地球温暖化に関心を寄せる左派の支持を取り込む狙いがあると言われています。一方、極右派のルペン氏が強調するのは、物価高騰に苦しむ低・中所得層の救済。マクロン政権は少数の人々の利益ばかりを優先させていると厳しく批判し、ガソリン関連の減税や裕福税の導入など、低所得者層をターゲットにした公約で急激に支持を伸ばしています。

マクロン氏とルペン氏の公式選挙ポスター。  朝日新聞デジタル「【そもそも解説】フランス大統領選の争点は ウクライナ侵攻下の選択」2022年4月10日 より

最近、右派の台頭が欧米先進国で目立ちます。最近で印象深かったのは、英国のEU離脱のレファレンダム(国民投票)でしょうか。

英国のEU離脱については、さまざまな議論があります。英字新聞や欧米の書籍を読むなかで、”anywheres”と”somewheres” の対立、という解釈が印象に残りました。西欧の現状をなかなか上手く説明していると感じます。

日本語に訳すのならば、「どこでも派」と「どこかに派」でしょうか。高学歴である程度の資産を持っており、世界中どこでも仕事ができるリベラルな中上流階級と、どこかの土地に根を張って働き続ける労働者階級の乖離。前者はグローバル化の波に乗り富を獲得するチャンスがありますが、後者はしばしば十分な教育や生活水準を享受できず、取り残される傾向にあります。反移民、自国第一主義など右派の主張に共鳴しがちです。

もちろん全てを説明できるものではありません。しかし、主にどちらの層がEU離脱に投票したかは容易に予想がつくと思います。自分たちは分け前にあずかっていない、今の政府は自分たちのことを考えていない、という不信と怒り。ヨーロッパの労働者階級の間に広がるこうした感情には、物質的な経済格差と同じくらい深刻なものがあります。

このような現象は、ヨーロッパだけではありません。筆者は、トランプ氏が当選した2016年の米国大統領選挙の時、アメリカ合衆国に住んでいました。トランプ氏の当選で顕在化したアメリカ社会の分裂の根底にも、この”anywheres”と“somewheres”の対立が横たわっていたように感じます。ちなみに、16年の選挙結果を示す地図を見ると、筆者の住んでいた州はトランプ氏率いる共和党の赤に染まっていました。

経済成長の停滞、物価の高騰、ウクライナ危機と移民問題。数々の難題にぶち当たるヨーロッパは、そして大国フランスはどこを目指すのか。国内の分断が、ヨーロッパの分断とさらなる戦争を産まないことを願うばかりです。

 

2016年アメリカ大統領選 選挙結果
United States presidential election of 2016. (n.d.). Encyclopedia Britannica. Retrieved April 20, 2022. より

 

参考記事

18日付 朝日新聞朝刊 (北海道14版)7面(国際)「仏大統領選 左派票狙う」

19日付 朝日新聞朝刊 (北海道13版)7面(国際)「決選投票へ 左派票に照準」

 

参考資料

ポール・カービー「フランス大統領選、マクロン氏とル・ペン氏が決選投票へ」『BBCニュース』2022年4月11日 https://www.bbc.com/japanese/61065224

Freedland, J. (2017, March 22). The Road to Somewhere by David Goodhart – a liberal’s rightwing turn on immigration. The Guardian. Retrieved from

https://www.theguardian.com/books/2017/mar/22/the-road-to-somewhere-david-goodhart-populist-revolt-future-politics