JR東日本の恵比寿駅には、接続する地下鉄日比谷線の沿線にロシア大使館があることから、日本語、英語、韓国語に加えてロシア語での案内表示があります。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、利用客から「不快」との意見が複数寄せられたことから、ロシア語の案内表示のみを貼り紙で隠していたことが明らかになりました。現在は元に戻されていますが、大きな波紋を広げました。
もちろん、ロシアの残虐非道な戦争犯罪は断じて許されるものではありません。だからといってロシアに関するもの全てが批判や排除の対象になることにどうしても違和感があります。
日本国内のロシア物産品店やロシア料理店には嫌がらせの電話やSNSでの投稿が、日本で活動するロシア人ユーチューバーのコメント欄に心ない言葉が書き込まれるような被害が出ています。どうしてこのような誹謗中傷が起きてしまうのでしょうか?
「例えば『ロシア』という国を悪者にすることは簡単である。けれどもその国の正義がウクライナの正義とぶつかり合っているのだとしたら、それを止めるにはどうすればいいのか。なぜこのようなことが起こってしまっているのか。一方的な側からの意見に左右されてものの本質を見誤ってはいないだろうか?誤解を恐れずに言うと『悪』を存在させることで、私は安心していないだろうか?」(東大公式HPより引用)
今年東京大学入学式で祝辞を述べられた映画作家の河瀬直美さん。そのスピーチの一部を抜粋したものです。この中の「『悪』を存在させることで、私は安心していないだろうか?」という部分に核心があると思います。
ロシア=悪の構造を作り出し、その国に関することを全て批判の対象にすることで、自分は正義の側の人間だと思い込みたい。そんな気持ちがどこかで働いてはいないでしょうか。考えることをやめて自分は正義だと信じていれば、それは楽かもしれません。ただ、それでは永遠に平和は実現しません。
「人を思いやることはあらゆる矛盾を解決し、人生を美しくし、ややこしいものを明瞭に、困難なことを容易にしてしまうのである」
『戦争と平和』の著者として知られるロシアの作家トルストイの言葉です。今、私たちに必要なのは「誹謗中傷」ではなく「思いやり」だということを教えてくれているような気がします。平和への道は険しく果てしなく遠いかもしれません。それでも、「世界中のだれもが同じように心を痛めている」と少しでも他者を思いやる気持ちを持ち、行動に移したなら、今よりも確実に本当の平和に近づけるのではないでしょうか。
そして、誰よりもこのことを心に留めてほしいのはロシアのプーチン大統領です。
参考記事
15日付 朝日新聞朝刊 (神奈川14版) 29面(社会) 「ロシア語案内 JRが貼り紙で隠す」
3月10日 読売新聞オンライン 「物産品店や料理店、ロシアへの中傷が相次ぐ…『侵攻に心を痛めているのは一緒』」
物産品店や料理店、ロシアへの中傷が相次ぐ…「侵攻に心を痛めているのは一緒」 : 社会 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
引用文献
東京大学公式HP 令和4年度東京大学学部入学式 祝辞 (映画作家 河瀬 直美 様),
令和4年度東京大学学部入学式 祝辞(映画作家 河瀨 直美 様) | 東京大学 (u-tokyo.ac.jp), (2022-04-15参照)