医療 患者家族の視点も忘れないで

「治療」と聞くと何が思い浮かびますか。患者を医師が元の健康な状態に戻そうと努める、つまり傷や病気を治癒することです。では、医療は。筆者は、医療を考える際には、患者の「周辺」という視点を取り入れる必要もあると思っています。

今日の読売新聞の朝刊で、がん基本法から15年経った現在を論じた記事を目にしました。そこで紹介していたのは、がん対策推進基本計画を策定する協議会の活動について。基本計画は国のがん対策の基本方針を定め、かつ都道府県の計画のもとになります。重要な役割を担うのが協議会です。

協議会は、医療専門家と有識者18名に患者、家族、遺族の代表4名を加えてスタートしました。従来は専門家のみで組織されがちでしたが、患者家族からの「患者も大変だが、家族も苦しみを抱えている」という意見が反映されたことでこの形となりました。「委員にはがん患者及びその家族又は遺族を代表するものを選ぶ」と基本法にも明記されています。家族は、第二の患者と呼ばれます。

2010年以降には、患者や患者家族の心の健康を支援する団体も複数立ち上げられているようです。

ですが、中皮腫で亡くなった祖父の闘病の姿とそれを支える祖母の姿を思い返せば、患者当人や家族がそうした外部団体へアクセスするのはハードルがあるようにも思います。在宅酸素などで緩和ケアにあたる姿、病院への移動ですらも身体に重い負担がかかる様子を見ていると、とても遠方の会に参加する機会は得られないと思ってしまいます。家族も患者を第一に考えて看病や補助にあたっています。身近にいて思いましたが、突然胸や背中が痛みだすなど急変することが多いのです。患者を置いて「いってきます」という選択は現実として成り立たないでしょう。

近年注目されている言葉に「カサンドラ症候群」というものがあります。こちらは発達障害の家族を持つ人に現れやすい精神的症状とされています。障害を持つ近親者を支えたいと思いながらも、発達障害特有のコミュニケーションの難しさや意思疎通での齟齬から発症します。

患者、障がいを抱える方の家族の苦しみは見落とされがちです。さらに当事者が真摯に向き合いたいと考えているからこそ、精神に不調が生じやすいといいます。

まずは、「第二の患者」という認識を周囲が持つ。これだけでも見過ごされることは少なくなるはずです。認識が変わることで周囲の態度や対応にも変化が生まれます。

そのうえで在宅訪問やリモート座談会など、家から出ずとも気軽に相談をしたり共感しあったりできる空間が広がっていくことが求められているのではないでしょうか。

【参考記事】

4月3日付 読売新聞朝刊 1面 地球を読む