地元にある建物に登ると、白いタワーが必ず見えます。東芝の府中事業所にあるエレベーター塔です。個人的にも身近な存在である東芝は、日本を代表する老舗の大企業です。
その東芝が昨年11月に企業の3分割案を提示し、話題となりました。しかし、本日付の朝刊によると、会社を2分割にする方向に修正するそうです。東芝に出資する海外ファンド、いわゆる「もの言う株主」の一部が、当初の分割案に反対していたと報じられています。
会社が示した3分割案では、原子力発電などの「インフラサービス」、ハードディスクドライブなど電子部品などの「デバイス」事業、半導体大手キオクシアホールディングスなどの株式を保有する東芝本体に分割するというものでした。デバイス、インフラ事業は、2023年下期の上場を目指していました。
これには、コングロマリット・ディスカウントを解消できるというメリットがあります。つまり、さまざまな事業を抱える複合企業が陥る問題、会社全体の価値が各事業の実際の価値の合計よりも低く評価されるという状態から抜け出られるというのです。企業を分割することで事業それぞれの評価を高めることができます。この決断に対しては実質的な「東芝解体」ではないかとの声も上がっていましたが、会社側は成長分野の事業への資源集中のきっかけとなると説明していました。
それが3ヶ月弱での修正。インフラ事業と株式管理を行う東芝を残し、デバイス部門のみを独立させるという方針は、週明けに投資家向けに説明される見通しです。いち早く3分割案に反対したのは、シンガポールを拠点とする「3Dインベストメント・パートナーズ」。説得力のある追加情報がなければ支持しないという書簡を送っていたといいます。昨今の経営の混乱の裏には、こうした株主の存在が大きいのでしょう。
東芝は15年の不適切会計問題で、2200億円もの粉飾決算が判明しています。背景は複雑でした。リーマンショックによる経営悪化。「チャレンジ」と称して過大な売り上げ達成を指示することで不正を誘発する企業風土。06年の米国の原子力発電会社ウエスチングハウス買収による損失も大きな打撃でした。
大幅赤字に転落した東芝は、17年には、国内製造業では史上最大の9600億円の赤字で世間に更なる衝撃を与えます。白物家電の事業を次々と売却したのも、この年でした。東芝は、2年連続の債務超過による上場取り消しを避けるために、苦肉の策として複数の海外ファンドから6000億円の資金を調達しました。ここから、投資家による経営への介入が始まり、企業VS株主という構図がつくりだされたのです。
21年4~6月期の連結決算で、東芝の最終損益は179億9600万円の黒字でした。車載向けの半導体やデータセンターで使うハードディスクドライブなど、幅広い事業が好調だったようです。投資家の思惑に左右されながらも、これからの経営は上向きとなっていくと期待したいものです。
世界を代表する複合企業である米国のゼネラル・エレクトリック(GE)、同じく製薬大手のジョンソンエンドジョンソンなども企業分割を発表しています。米国を代表するダウ工業株平均の構成銘柄からGEが外れるなど、歴史を持つ企業を取り巻く環境も日々変化しています。競争を乗り越えるために新たな動きを迫られることは、珍しいことではないのかもしれません。そう考えれば、創業140年を超える東芝も変革の時なのでしょう。VUCA時代、若い自分ですら先が見えない時があります。そんな中、老舗企業が自らの変革を迫られる光景からは学ぶところも少なくありません。今後の展開に、目が離せません。
【参考記事】
日本経済新聞 2月5日付 朝刊 東京13版 東芝、空調子会社を売却 3分割案は2分割に
読売新聞 2月5日付 朝刊 東京13版 2面 東芝 2分割に修正へ 関連9面 「物言う株主」に迫られ
朝日新聞 2月5日付 朝刊 東京14版 東芝 2分割に修正検討
【参考資料】 東芝不正会計事件はなぜ起こったのか 証券経済学会年報 / 解体へと歩む東芝 名門に何が 会社分割案の期待値とリスク 毎日新聞デジタル