目指せ!「日の丸半導体」復権

自家用車、パソコン、スマートフォン・・・。日常に欠かせない製品の製造を支える「半導体」は産業のコメと表現され、注目度が高い分野です。国産の「コメ」を増やすための動きが3日付の読売新聞朝刊で報じられていました。

政府は、高等専門学校(高専)に半導体の開発、製造に関する教育課程を盛り込むことに決めました。対象は九州にある八つの高専です。2022年度中には導入される予定で、専門人材を育成することで半導体の国内生産を増強する狙いがあるといいます。高専は、専門教育を行う高等教育機関で5年制です。一般科目に加えて、機械、電子、化学などの専門科目を学んでいます。加えて、実習や実験を特色とするため、高い技術力を持つ理系の高度人材を輩出しています。

具体的には、九州経済産業局が半導体事業に携わる企業が求める知識や技術の水準を掌握し、文部科学省、独立行政法人高等専門学校機構と協議を重ねて決定するといいます。こういった半導体の専門課程が導入されれば、高い技術力がある高専の卒業生が半導体業界の担い手となることが期待できます。

筆者は、これは重要な施策だと思いました。国内の半導体業界を復活させるという課題を解決するためには、何よりも人材育成が必要です。かつて日本の技術が海外に出て行ってしまったのは、人材流出が一因だったと日経新聞の記事内でも指摘されていました。もう一度産業基盤を整えるうえで、人材育成、流出防止は欠かせないといいます。

以前は世界をリードしていた日本ですが、今では半導体の国内需要の6割以上を海外の輸入に依存しており、海外情勢の影響を強く受けています。2020年末から21年は世界的にも半導体が不足し、右往左往させられました。半導体不足の理由は大きく分けて、需要の急拡大、自然災害による生産現場の影響、政治的要因などがあります。

需要の急拡大の背景には、コロナ禍によるテレワーク移行、5G・暗号資産の拡大による高性能半導体の需要増が挙げられます。自然災害では、台湾での干ばつが大きな影響を与えました。工場用水の不足は減産につながります。半導体生産はTSMCという台湾企業の一強体制であり、台湾で発生した自然災害が世界の半導体生産に影響を与えたのです。

大きく注目すべきは米中関係が半導体に影響を与えることです。2020年、米国のトランプ前大統領は5G技術で世界をリードする中国のファーウェイをやり玉に挙げ、同社製品の禁輸措置をとりました。日本を含む同盟国にも締め出しを呼びかけたことも記憶に新しいところです。20年10月に中国の大手メーカーSMICに禁輸措置をとったことで、半導体生産はTSMCに一極集中し、摩擦の影響が国際市場を直撃しました。米中の覇権争いがハイテク産業に与える影響の大きさを思い知らされます。

半導体供給には、海外の様々な事情が複雑に絡んでいます。日本が6割依存ということは、半導体を必要とする国内産業の6割が、海外の事情に振り回されているともいえます。半導体の安定供給を支え、各産業の基礎体力を引き上げるためにも、国内での半導体製造を拡大することは急務です。最近では、九州にTSMCの工場を設置することも決まりました。先月には、岸田首相が半導体製造の強化に向けて「官民あわせて1兆4000億円を超える大胆な投資を行う」という宣言もしています。

1989年、半導体シェアの53%を握ったことで日本は世界を驚かせました。すでに30年以上が経ちましたが、今からでも遅くありません。ハイテク産業が拡大する令和の時代に夢よもう1度。頑張れ日本。

Gartner (2021年2月)より引用 半導体を消費した会社の順位 身近な製品に半導体が不可欠だとわかる

【参考記事】1月3日付 読売新聞朝刊 1面 高専に半導体課程 国内生産増強 担い手育成

【参考資料】

日経新聞オンライン: 12月21日先端半導体工場に補助金 TSMCなど対象に 12月16日 首相「官民で1.4兆円超す投資」 国内の半導体製造支援

朝日新聞デジタル: 半導体復活「最後の好機」 TSMC誘致、巻き返し戦略求める声

経済産業省HP PDF資料 半導体戦略(概略)20216 経済産業省

Gartner (20212月)公式HP