おしゃれも環境配慮も 欲張りを叶えて

急に、インナーカラーを入れたくなった。可愛くして、気分を上げたくなった。

けど、カラー剤って環境に悪いって言うよなあ……。

思い出したのは、環境問題の活動家が、ヘアカラーを楽しんでいることをSNSで批判されていたことだ。別に、私は環境活動家でもなんでもないけれど。ちょっとだけ、引っかかる。でも、私は今とても、インナーカラーを入れたい!

「環境に優しい」「カラー」など、Google先生に聞きまくってみたが、あまりヒットしない。「オーガニック製品を使っています」「髪に優しいです」と謳っていても、一部に使っているだけの店が多く、環境への取り組みを全面的にアピールできているサロンは少ない。東京には少しずつ増えてきたようだが、私の住む愛知県には、並べて比べられるほどの数はなさそうだった。

 

■エシカルサロン『HaKU』へ

「sustainable beauty」をコンセプトにしているという、一番それらしいお店を見つけ、とりあえず足を運んでみた。地下鉄名城・鶴舞線の上前津駅から徒歩1分。大須商店街の大きな招き猫から東に伸びる通りに面したビルの2階に、全面ガラス張りのサロン「HaKU」が見えた。

「89」と書かれた白い扉の入口を開けると、プライベートサロンらしいこぢんまりと落ち着いた空間に、4つの座席。温かみのある白を基調とした壁には、美容院にしてはたくさんの本が並んでいる。ビジネス、漫画、小説、写真集とジャンルは様々だ。

初めに「どんな髪の悩みがあるか」「施術中、美容師と会話はしたいか」などの質問が並ぶカルテに記入し、シャンプー台へ。爽やかな香りにリラックスしながらお話しすると、シャンプー、トリートメントも全て天然由来の成分が原材料であるオーガニックのものを揃えているのだとか。なかなか徹底している。

スタイリストさんのカウンセリングを受け、ビーガンブリーチで色を抜いた上で、ビーガンカラーを施術してもらうことに。これらのブリーチ剤、カラー剤は、植物を原料とした天然由来成分を使用している。「環境に優しいことに惹かれて」と伝えると、テキパキと手を動かしながら、「一般的なものだと石油製の染料を使っているので、自然で分解できないんです。海に流したとき、海洋汚染に繋がりにくく、環境負担を減らせるのは植物性で生分解性に優れた成分で…」。何から採れる、何という成分を使用しているのかまでかなり詳細に教えてくれた。髪や頭皮へのダメージも少なく、切れ毛が8割以上減るのだとか。美容師は皆ここまでの知識がある訳ではなく、自分で勉強したらしい。

▲環境や人にやさしいヘアケア商品。中には、一本買うことで3㎡の森を1年間保全するための支援に充当される「フォレストック・プロジェクト」に参加している商品も。

▲「ゼロウェイストハイライトカラー」。通常、ブリーチやカラーリングする際はカラー剤を塗った髪をアルミホイルなどで挟み、その状態でしばらく時間をおくが、HaKUでは透明フィルムを使い回す。年間のゴミを大きく減らし、CO2排出を削減できる。

 

■こだわり、そのモチベーション

カラーリングの相場は6000円+税であるのに対し、ここは7000円+税だ。ただ、オーガニックのカラー剤の値段は通常の1.5倍。お店を小規模にして固定費を抑えたり、Instagramでの集客に力を入れ広告費を抑えたりすることで、その分をお客さんへのおもてなしに充てているのだという。

代表でありスタイリストの前田ユーキさんは、美容専門学校を卒業後、東京や海外支店のサロン、名古屋のオーガニックサロンでの勤務を経験。令和の時代が始まるのと同時にエシカルサロンHaKUをオープンした。お客さんの悩みを引き出し、スタイリストと理想の擦り合わせをするカウンセリングに力を入れ、「お客様にとっての最良の選択」にこだわってきた。オーガニック製品を取り揃えることになったのも、利用者にとって良いものを追求した結果だ。肌に、髪にとって優しいものは、環境にとっても優しかった。

3ヶ月周期の新規リピート率は68%。コロナ禍によってお客さんの来店頻度は多少減ったものの、最近の業績は好調だ。Instagramの集客が功を奏し、若者の利用も増えている。新商品開発にも意欲的だ。持ち前の知識を活かし、理想の成分を配合したヘアオイルづくりを、クラウドファンディングでスタートさせた。お客さんとして出会った、ヨガの先生、エステサロン経営者、アロマテラピストの方なども、心強い協力者だった。長野のオーガニック農場や工場にも足を運び、パッケージまで環境配慮にこだわった、納得のいく商品が完成。先月から販売している。

 

■環境に配慮したお店が少ないわけ

思った以上に素敵なお店だった。はて、こういったお店は他にはあまりないのだろうか。

「『オーガニックサロン』と称しているところはあるけれど、全ての商品をオーガニックに揃えているところは少なく、中途半端になってしまうところもちらほらある。利益主義になってしまいがちかもしれない」

と、前田さん。名古屋でオーガニック志向の経営者同士の交流を求めると、飲食の経営者など、ヘアサロン業界以外の方と繋がることが多いのだとか。美容室は全国に25万店以上あり、なんとコンビニの数の4.5倍に及ぶ。そんな激戦業界だからこそ、前田さんも、他とは違う新しいことをしないと続けていけないと感じるそうだ。

「日本は海外よりも、カラー剤などに対する環境保護のための規制がかなり緩い。それも理由の一つだと思う。自然に対する感じ方、宗教観の違いも多少は影響しているかもしれない」

とも教えてくれた。SDGsという言葉は浸透してきたものの、実態はまだ追いついていない部分が多そうだ。日本で作られたオーガニックのヘアケア製品は、まだ少ないという。

 

■施術を終えて

耳下からちらりと覗く、落ち着きと抜け感を併せ持ったインナーカラー。我ながら、垢抜けて魅力的になったと感じた。ヘアセットも、私史上抜群に可愛い。

▲左はビーガンブリーチ直後の髪色。筆者の髪質は色が抜けやすくも抜けにくくもなく、一般的な抜け具合だという。肌に優しいため、スタイリストの手も荒れなくなったのだとか。右はビーガンカラー施術後。

お気に入りのヘアカラーを楽しむことと、環境や髪へのダメージに配慮することは、両立できる。私たち一人ひとりに向き合いわがままを叶えようとしてくれる、プロダクトやサービスは、知らないだけで結構あるのかもしれない。見た目の理想を手に入れ、かつ体にも環境にも優しく。欲張ってみてはいかがだろうか。

▲スタイリストの前田ユーキさん。趣味は読書。シルバー会員以上の方には貸出もしている。