筆者の選ぶ個人的「2021年の3冊」

12月26日付の読売新聞朝刊の文化面。「本よみうり堂」で「読書委員が選ぶ『2021年の3冊』」として、毎月400冊を超える新刊本に目を通すという、20人の読書委員の方々が選んだ本が紹介されていた。書店で何度も見かけた話題の本から、「自分じゃ絶対手に取らないな」と思うような海外作家の本や歌集まで。新聞の書評に限らず、他人のオススメの本を聞いてみることは、ついつい自分の興味や好みで偏りがちなチョイスに新鮮味を持たせてくれて面白い。

全て2021年に出版された新刊本とはいかないが、筆者も今年読んでこれはと思った本を3冊を紹介したい。

 

  • 上間陽子著 「海をあげる」(筑摩書房)

著者である上間氏は、沖縄の大学で教授として働き、少年少女の支援や調査を行なっている。沖縄での生活と、娘との日々を中心にして展開されていくエッセイだ。これまで持っていたのは、綺麗な海と美味しい食べ物という観光地としてのイメージだったが、上間氏の描く沖縄は全く異なるものだった。米軍基地の問題など、自分自身も含めて、普段考えたこともなかった読者を一気に沖縄の海まで連れて行ってくれる。現役の書店員の投票によって選ばれるノンフィクション本の賞である「Yahoo!ニュース 本屋大賞2021」にも選ばれた。最後の章を読み終えた時に、そのタイトルの意味に心を締め付けられ、立ち止まってしまう。そんな1冊だ。

 

  • 村上龍著 「希望の国のエクソダス」(文藝春秋)

「2002年秋、80万人の中学生が学校を捨てた。経済の大停滞が続くなか彼らはネットビジネスを開始、情報戦略を駆使して日本の政界、経済界に衝撃を与える一大勢力に成長していく。その後、全世界が注目する中で、彼らのエクソダス(脱出)が始まった。壮大な規模で現代日本の絶望と希望を描く傑作長編。」(本書文庫版あらすじ)という刺激的な文章に惹かれて読み始めた。

小説でありながら、財政悪化や高齢化などの社会問題も取り上げられており、日本の現状というものを突きつけられる。そして、物語に登場する中学生たちのセリフがこの本の魅力だ。

「学校では、どういう人間になればいいのかわからなくなるばかりで、勉強しろ、いい高校に、いい大学に、いい会社に、いい職業に、ってバカみたいにそればっかり。」

最近、「自分らしさ」といった言葉が多く語られ、そのような生き方をしたい人が増えてきているのではないか。作中の中学生たちも同じようなものを求めている。20年ほど前の作品なのに、彼らに共感できてしまうのは日本があまり変わっていないことを示しているような気がした。「普通」や「希望」とは何か。著者の描く壮大な世界観と、社会に鋭く切り込んだ視点からのストーリーに引き込まれる。

 

  • アンデシュ・ハンセン著 「スマホ脳」(新潮新書)

本書はスウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏が、スマホやS N Sが脳に与える影響と事実を示している。コロナ禍で今まで以上にスマホを見ている時間が増えた。スクリーンタイムが1日8時間と表示され、苦笑いした時もある。私たちのライフスタイルは急速にデジタル化が進んでいる。スマホもS N Sも私たちの注意を惹きつける誘惑の塊だということが本書を読んで感じたことだ。集中が阻害されたり、精神的な不調をきたしたり、その悪影響を感じている人は多いのではないだろうか。現代で完全にスマートフェンを手放した生活というのは現実的ではないかもしれない。ただ、それらがどのような影響を与えるのか、どう向き合っていくべきか考える必要はあると思う。自分のスクリーンタイムを見てドキッとした方はぜひ、この本を読んでみることをお勧めしたい。

 

年末年始は、普段よりまとまった時間が取れる人が多いのではないだろうか。様々なジャンルの本に触れると、新しい知見を得たり、何か自分の中に眠っていた言葉を思い出したり、生活や考え方を見直すきっかけになるかもしれない。ちょっと本屋を覗いてみると意外な出会いがあるかもしれない。

 

 

参考記事:

12月26日付読売新聞朝刊12、13面文化(東京)「読書委員が選ぶ『2021年の3冊』」