白い光の中に 山並みは萌えて 遥かな空の果てまでも 君は飛び立つ
限り無く青い空に 心ふるわせ 自由を駆ける鳥よ ふり返ることもせず
これは「旅立ちの日に」の冒頭部分である。卒業ソングの定番で歌った人も多いのではないだろうか。
音楽の教科書に載っている曲と言えば、このような合唱曲のイメージがあるが、最近ではいきものがかりの「ありがとう」や米津玄師の「Lemon」、フジファブリックの「若者のすべて」など、J-POPも採用されている。
そもそも音楽教育の意義とは何なのか。
日本においては、1872年に、「徳性の涵養」を目的とし、「唱歌」「奏楽」という教科を設置したことにその歴史は始まる。その後、現在に至るまで「情操」という言葉が学習指導要領に一貫して入り続けており、「人間形成」という目的を主軸にしていることが分かる。
音楽の教科書に掲載される楽曲の変化のように、その目的や意義も時代の流れに従って変わっていく必要があるのではないかと思う。というのも、今日では音楽への親しみ方は大きく変容しているからだ。昔は目の前の楽器や蓄音機など、1つの物から出る音を、その場にいる全員で共有することができた。しかし、1979年に登場した「ウォークマン」を筆頭に音楽を個人で楽しむ時代が到来した。思い出してみて欲しい、電車に乗るとき、自分自身を含め、多くの人がイヤホンをしてはいないだろうか。この点から、音楽教育の意義には1つの音楽の分かち合いなども今日では求められることである。また、グローバル化の進展も私たちに養うべき素養の多様化を促しているだろう。
学校以外ではクラシックなど「お堅い」音楽は好んで聞かない人もいるだろう。様々なジャンルに触れる意味でも、今まで通り、オーケストラや合唱曲を扱い続けるべきだと筆者は思う。その一方で、音楽の素晴らしさを人と共有する経験を子どもたちに提供することも音楽教育の義務であると思う。その意味で、生徒に身近なJ-POPを素材に使うというのはとても有効なのではないだろうか。
参考記事:
14日付朝日新聞夕刊(東京14版)10面、「『若者のすべて』、何年経とうとも ロックバンド名曲、高校の教科書に」
参考文献:
日本音楽教育学会、『音楽教育研究ハンドブック』、音楽之友社、2019年
山本文茂(東京藝術大学名誉教授)、『音楽はなぜ学校に必要か その人間的・教育的価値を考える』、音楽之友社、2018年