中央大学多摩キャンパスの大講義棟は、1960年代に過激さを増した学生運動の名残をとどめています。教壇の横手には、教授が身の危険を感じたときに素早く外に逃げられる出口。椅子と机は動かせないよう床に固定されています。学生がドアを塞ぎ、教室に立て籠るのを防ぐためです。70年代に神田駿河台から現キャンパスに移転する際、学校側がいくつもの対抗策を講じたわけです。政治社会学の授業で、学生運動を取り上げた折に教わりました。
学生運動に参加していた方から当時の話を聞けたことがあります。2年ほど前、電車でホッケーの試合会場に向かっていたとき、60代かと思われる卒業生の方に声を掛けられました。大学のシンボルであるCマークのユニフォームを着る筆者を見て、懐かしく思ったそうです。筆者が法学部生で、多摩キャンパスに通っていることを伝えると、自身も法学部生で駿河台キャンパスに通っていたと教えてくれました。そして運動に精を出していたときのことも。中大だけでは人数が少なかったので、近くに住む他大学の学生を呼んで一緒に立てこもっていたそうです。
「拡声器片手に叫ぶ学生生活なんて今の学生さんには想像できないよね」と笑うOBに、素直に想像できないと答えました。
とはいえ今の大学生が主張しなくなったわけではありません。ネット上で賛同を集めるオンライン署名が新たな意思表示の場として注目されています。昨年は全国の大学生が自らの大学に学費減額や免除を求める運動が起きています。今年であれば私立大学への入学金の納入期限を遅らせるよう求める呼び掛けに、インターネット上で3万7千もの署名が集まり話題になりました。
これほどにオンライン署名が活発化している理由は、声を上げることへの抵抗感が払拭されているところにあるのではないでしょうか。今朝の日経新聞「私の履歴書」で吉野彰さんは、大学闘争時の京都大学の学生を3つに分類していました。政治への関心が強く全共闘運動のイデオロギーに共鳴した全共闘シンパ派、政治に関心がないノンポリ無関心派に加え、共鳴はしないものの運動への関心はあるノンポリ関心派です。
半世紀前のような学生が身体を張って、熱く主張するやり方に抵抗感を持つ人は少なくないでしょう。時間や場所に縛られず、画面越しで意思表示できるオンライン署名は、関心派を幅広く受け入れる器の広さと手軽さを兼ね備えているように感じます。
中央大学法学部は2023年に文京区茗荷谷に移転する予定です。学生の言論空間がネットに移行しつつある今、新キャンパスに学生運動対策の名残は見られるのか、気になるところです。
参考記事:
6日付日本経済新聞朝刊36面(文化)「私の履歴書 吉野彰⑥ 大学闘争」