大使館がない国もある、ガンビア名誉総領事に聞いてみた

「オリンピック期間中は、本当に忙しかった」。ガンビア共和国の在名古屋名誉総領事、ビントゥー・クジャビ・ジャロウさん(53)が話してくれた。アフリカ西部、大西洋に面する小さな国ガンビア。植民地時代の境界線がそのまま残り、周りはセネガルに囲まれている。岐阜県と同じくらいの面積だ。

今年2月現在、世界157の国が日本に大使館を設置している。一方で、「お金がかかる」などの理由から置いていない国もある。そこにガンビアも含まれる。ビントゥーさんが名誉総領事を引き受けたのは2015年。日本における外交官の役割も果たしている。それまで在日ガンビア人は、隣国のセネガル大使館やアメリカ大使館を経由して自国と手続きをしなくてはならなかった。

ビントゥーさんは、夫の留学を機に30年前に来日。大使館が無い不便さを痛感したという。「娘のパスポートが切れてしまったときは、アメリカ大使館経由で手続きしたの」と話してくれた。複雑な手続きが絡むため、後回しにされて時間がかかる。それから何度もガンビア外務省に「大使館を設置してほしい」と手紙を送った。「手紙を送っただけでは、なかなか話が進まなかったの」。知人にガンビア大統領の兄を紹介してもらったことで、要望を直接大統領に伝えてもらうことができたという。大統領から電話があり、領事館開設に向けて話が動き出した。政府からは、経費がかかるため大使館は設置できないと告げられたが、「私がやります」と総領事の仕事を引き受けた。

 

五輪期間中、総領事として東京で仕事をするビントゥーさん・写真中央(ビントゥーさん提供)

 

東京五輪では、ガンビアから4人の選手が来日した。大阪府守口市がホストタウンとなり、交流イベントが予定されていた。「中止になってしまったのは本当に残念だった」。開催に向けて、守口市と電話やメールでやり取りをしていたという。大会期間中は東京で、選手団とともに3週間仕事をしたと話してくれた。「暑くて、忙しくて、人が多くて。それでもいろんな経験ができた」。開会式の日は一番忙しく、午前2時まで仕事があったそうだ。

「オリンピック業務の時、初めてガンビア政府がお金を出してくれたの」。通常の領事館業務は無給でボランティア業務なのだという。深夜遅くまで業務をする日もあるというが、「日本とガンビアの交流ができれば」との思いで仕事をしている。総領事としての傍ら、今年4月にアフリカ料理のレストラン「ジョロフ・キッチン」(名古屋市西区)を開業した。明るく、きれいな店内で、本場のアフリカ料理を食べることができる。

 

調理中のビントゥーさん。香辛料のいい匂いに食欲がそそられる(12日、筆者撮影)

チキンアフラというガンビア料理。スパイシーな鶏肉とサラダが美味しい(12日、筆者撮影)

 

「最近は、ガンビアに関心を持ってくれる日本人が増えてとても嬉しい」。国内で治せない病気の治療のために、日本人医師がガンビアに行ってくれたこともあるという。最近は、大学と共同で文化交流事業を計画している。「ガンビアの公用語は英語。日本人の学生に関心を持ってもらい、留学先に入れてもらえるようになりたい」と話す。

ビントゥーさんは、日本人にも、ガンビア人にも、お互いの国の良さを伝えることを使命だと考えている。両国間の交流を活発にするために、大使館が欲しい。いつか大使館ができる日まで、日本でただ一人の在名古屋ガンビア名誉総領事の仕事は続く。

 

甘酸っぱく、ビタミンCが豊富なウォンジョジュース。「ジョロフ・キッチン」では、様々なガンビア料理が食べられる(12日、筆者撮影)

 

参考記事:

11日付 読売新聞朝刊9面(埼玉12版)「国賓おもてなし 外交の舞台」

12日付 朝日新聞朝刊1面(埼玉14版)「五輪コスト 結局は?」

参考資料:

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