ビジネスにおいて重要なのは「いかに付加価値を高めるか」だとよく言われます。製品を普及させるには、消費者に「欲しい!」と思わせるアイデアが欠かせません。群馬県ではワクチンを促進するために、接種した若者に抽選でスバル車や旅行券が当たるという記事を見つけました。同県では若い世代の接種率が2割未満しか進んでいないといいます。
日本では5月あたりから順調にワクチンの接種率が増えてきていますが、それでもまだ躊躇している若者もいます。筆者の住む英国では人口の7割が既に一度目の接種を終えており、外国人でもパスポートと在住の証明書さえ提示すれば、接種できるようになりました。筆者も今月2日、ファイザーの1回目のワクチン接種を受けてきたばかりです。そこで今回はワクチンという製品を普及させるために各国がどんな工夫をしているのか見てみようと思います。
■ワクチンを打つか、打たないかの判断
人は何かを決断する時、たいていメリットとデメリットを比較し、どちらの方が大きいかで結論を出します。ワクチン接種におけるメリットは感染の予防。そしてデメリットは副反応に対する心配。しかし、感染の予防という理屈だけでは若者はあまり食いつかないような気もします。なぜなら、若者は感染しても比較的軽症で済む可能性が高いからです。一方で、ワクチンを打てば副反応によって仕事や学校などを休まなければならなくなるかもしれない。そもそもワクチンが絶対に安全とも限らない。そう考えて、「なんか怖いし、今はまだ打たなくていいや」と接種を先延ばしにする人も多くみられるのではないでしょうか。
一方で、英国にいる友人たちに「なぜワクチンを接種したか」と尋ねると、「感染を予防するため」ではなく、「旅行に行くため」と答えられました。ワクチン証明書があれば、国境をまたぐ際に隔離措置や陰性証明書が原則として不要になると政府が発表したからです。ヨーロッパ内は気軽に周遊できるため、バカンスで数週間ほど海外を回ったり、中には日帰りでフランスへ遊びに行ったりすることがパンデミック前は当たり前でした。日本と比べて海外旅行がより身近にあるヨーロッパ人からすると、夏休みにどこにも行けないことに強い不満を感じることも多いでしょう。ワクチンさえ打てば旅行に行けるという付加価値が彼らをワクチン接種へと導いているのです。
■ワクチンパスポート 日本での普及は
日本でも同様に、海外渡航者向けにワクチンを接種したことを証明する「ワクチン証明書」の申請受付が既に始まっています。ところが、現状でこの証明書が使えるのはイタリア、トルコ、オーストラリア、ブルガリア、ポーランドの5ヵ国しかありません。日本から簡単に行けるのは、韓国や中国などのアジア圏ですが、そこではまだ証明書だけで隔離が免除になるような特例はありません。
片やイタリアでは、より強制力を伴ったワクチンの義務化を進めています。新型コロナウイルスのワクチン接種の陰性証明がなければ、高速列車や長距離バス、飛行機などの公共機関の利用ができなくなると政府が発表したのです。このようにかなり厳格な措置を取ることで半ば強制的に接種を促す国もあります。
ワクチンを打つことで自分の周りの人への感染を抑えることができる。そういった理由から接種する若者が増えるのが理想的です。しかし、現実には明らかなメリットがない限りそう簡単に人は動きません。及び腰の若者たちにさらに接種を促すには、新たな有用性を提示して「消費者」の興味を惹くことが重要になってくるのではないかと思います。
参考記事:
朝日新聞デジタル7月27日付「ワクチン証明書、広がるか 国内で申請受け付け開始、利用可能は現状5カ国」
朝日新聞デジタル8月6日付「ワクチン打った若者に抽選でスバル車 感染拡大で群馬県」
日経電子版8月7日付「イタリア、接種証明提示を厳しく 交通機関利用の条件に」