神奈川県内の飲食店で働くアルバイトの30代の女性が、21日、コロナ禍で店が休みになった間の休業手当などを運営会社に求め、横浜地裁に提訴しました。緊急事態宣言で休んだシフト労働者に手当を払う法的義務があるかは、これまでも論争になってきました。果たして、「コロナ禍での休業」は会社に責任があるのでしょうか。
民法や労働基準法は、会社側に責任があれば休業手当を払うように義務付けています。一般的には大地震などの「不可抗力」があれば責任がないと解釈されていますが、コロナ禍がそれにあたるかは意見が分かれます。
原告の女性の働く店は、20年4月4、5日と、同8日~5月25日に休業したうち、シフトが決まっていた4月分は補償しましたが、他の期間は行いませんでした。正社員の店長には全期間補償したそうです。不可抗力について、厚生労働省は①事業の外部で発生した事故で②経営者として最大の注意をしても避けることができない時、と説明しています。他の仕事をやってもらうなどの努力をしているかどうかも判断基準となります。
確かにこの頃は初の緊急事態宣言が出され、未知のウイルスに対する警戒心が今よりもはるかに強い時期でしたから、人の命に関わるコロナ禍が不可抗力と認められる可能性はあるでしょう。しかし私は、パート労働者に対する企業の責任を厳しく問い、彼らの権利を慎重に保護すべきだと思っています。本当に他にやれる仕事がなかったのか。パート労働者の給料を払えなくなったとしても休業するしか選択肢がなかったのか。雇用調整助成金を受給してもなお支払うことができないのか。審理を尽くすべきです。
たとえアルバイトであったとしても、彼らに対して給与を継続的に支払う責任は、企業にあるはずです。パート労働者に休業手当を払わない企業の中には「シフトで働く労働者は就業時間が直前まで決まらないので必要ない」という主張もあるようですが、それは間違っていると思います。シフトに入るか入らないかについて、ある程度の裁量が労働者にあることは契約時に明確にされています。ならば、労働者の希望通りに働ける機会を用意するのは、会社の責務であるはずです。
他のアルバイトを見つければ良いとか、資本主義社会なのだから世間のニーズに合わせてサービスが変わっていかなければならないという反論もあるでしょう。しかし、新たな仕事を探してすぐに働くのは難しいですし、需要の変動によっては仕事がなくなるかもしれないリスクを負うのは労働者ではなく、まずは資本や権力を持つ会社側なのではないでしょうか。原告代理人の川口智也弁護士も指摘するように、会社は大量に非正規社員を雇って収益を上げてきたわけですから、ぞんざいに扱うことがあってはなりません。
今回訴えを起こした女性は、「同じような立場の人や自分自身のために、諦めず闘う」と話したそうです。
訴訟は時間も労力もかかります。もしかすると、その分他で働いていれば、休業手当と同じだけの金額を手にできたかもしれません。自分より大きな組織を相手にするのには、勇気と覚悟だって必要です。それでも闘うと決めた原告の女性に敬意を表します。彼女の行動は、弱者を軽んじ粗略な扱いをする風潮にストップをかけることに繋がったのではないでしょうか。雇う側も雇われる側も、人間として対等であることを思い出させてくれました。訴訟の行方を見守っていきたいと思います。
参考記事:
22日付 朝日新聞朝刊(愛知13版)7面(経済)「コロナ休業 手当求め提訴」