イラン 反米・保守強硬派政権誕生へ しらけムードの正体は?

イラン大統領選で、反米・保守強硬派のエブラヒム・ライシ司法代表(60)が勝利しました。8年ぶりの保守強硬派政権の誕生に、国内外に様々な懸念や不安が広がっています。国際社会の関心も高いイランのリーダー選び。一方で、4年に一度の選挙なのに市民は思いの外『白けムード』です。投票率も過去最低の48.8%まで落ち込みました。あえて無効票を投じたと証言する市民もいたほどです。一体、なぜでしょうか。

イランではまず、選挙前に候補者を事前審査する「護憲評議会」が存在します。ここで候補者を選定する仕組みです。今回の選挙では7名にまで絞りました。5名が反米路線の保守強硬派、残り2名は改革派であり、これまでの大統領ロウハニ氏と同じ国際協調路線の保守穏健派の候補者は不在です。護憲評議会の審査により穏健派はことごとく失格。対立候補不在の大統領選ができあがったことになります。

これに対して、選挙の3週間前にロハウニ氏が「選挙で最も重要なのは競争だ。それを取り除けば終わりだ」と述べ、最高指導者のハメネイ師に審査結果の見直しを求める書簡を送ったようですが、抵抗むなしく結果が見直されることはありませんでした。市民の投票率の低さも頷けるほどの形骸化した選挙戦です。そもそも対立候補がいないので、「戦」にもなっていません。

問題はこれだけではありません。ライシ師が、「護憲評議会』に強い影響を与える最高指導者ハメネイ師の愛弟子ということにも注目すべきです。ハメネイ師は現在82歳であり、終身制を取っている最高指導者の後継者問題に直面していると考えられます。そこで護憲評議会はハメネイ師の意向を忖度し、ライシ師が当選できるように仕組んだのではないかと地元メディアも指摘しています。実際に、ライシ師と同じ保守強硬派の人物が選挙2日前に立候補を辞退。ライシ師以外は知名度が低い候補者ばかりとなりました。ライシ師を確実に当選させようとする動きが目に付く大統領選でした。

以上のように、国民が「仕組まれた」と感じるような大統領選が、白けムードの正体だったのです。政治というのは、いかなる場合も公正でなくてはならないはずです。国によって文化、政治のあり方は変わるので一概には言えないものの、少なくともイラン市民は大統領選に失望の態度を示しています。国際社会から注目を浴びながらも、市民の目は冷ややかであった選挙は幕を下ろしました。しかしライシ師の政治が始まるのはこれからです。今後もイラン情勢から目を離さず、新政権の動向を見守りたいと思います。

 

 

参考記事:20日付 読売新聞 朝刊 (東京13版)1面 「イラン大統領 ライシ師 反米強硬派 8年ぶり」関連記事3・9面