「原子力明るい未来のエネルギー」、こう書かれた看板が福島県双葉町の中心部に設置されていました。この標語は1987年に広報事業の一環として町民から募集したもので、小学6年生の作品が採用されました。2016年に老朽化によって撤去され、今年3月から同町内にある「東日本大震災・原子力災害伝承館」で展示されています。
原発事故以前は危機管理への意識が甘く、メリットばかり注目されていました。「安全神話」がまかり通っていたわけです。誘致した自治体にもたらされる交付金や雇用による経済効果は大きく、発電時に二酸化炭素を出さない環境にやさしい発電として知られていました。
しかし事態は一変、震災から10年が経過した現在でも、双葉町では町内全域で居住ができず、すべての町民が避難生活を余儀なくされています。原発に対する国民の不安も高まり、朝日新聞(昨年12月)と読売新聞(3月)が実施した全国世論調査では、どちらも半数以上の人が原発再稼働に反対と回答しています。
震災以前は、国内の発電電力量の3割を原子力発電が担っていました。現在は大部分の原発が稼働停止に追い込まれ、その不足分を火力で補っています。20年の全発電電力量に対する火力の割合は7割を超え、温暖化問題で矢面に立たされている石炭火力発電が全体の2割強を占めます。
昨年10月、菅首相は50年までに脱炭素社会を実現すると発表しました。達成に向けて大きな障壁となるのは、発電時に大量の二酸化炭素を排出する石炭火力です。
1日、十倉雅和氏が経団連の新会長に就任しました。脱炭素社会が注目される中、報道各社のインタビューに十倉氏は次のように話しました。
再生可能エネルギーを進め、原子力発電所の再稼働やリプレースに取り組まなければいけない。原発は欠かせない
大きな事故を引き起こした原発を推進することに賛同はできませんが、石炭火力で得られていた電力をすべて再生可能エネルギーで代替することも困難です。また、燃料を輸入に頼っている日本で火力に依存することは、エネルギー安全保障の観点からも不安が残ります。期待されるのは新しい発電技術なのでしょうか。今月からは発電会社JERAがアンモニア発電の実用化に向けた実証実験を始めます。
地元合意が得られない原発の再稼働、国際的に非難が集まる石炭火力。脱炭素社会はとても厳しい目標であることは間違いありません。新たな技術開発に力を入れる一方、安全性を最優先に取り組んでほしいと思います。
参考記事:
1日付 朝日新聞朝刊(埼玉13版)7面「脱炭素目標 厳しいが成長の好機」
1日付 日本経済新聞朝刊(埼玉12版)5面「エネ計画『原発利用 明記を』」
1日付 読売新聞朝刊(埼玉13版)7面「経団連『脱炭素』強化」