今日5月30日は、日露戦争でロシアのバルチック艦隊を撃破した東郷平八郎の命日、「東郷平八郎忌」だそうです。彼が主人公というわけではありませんが、日露戦争と聞いて司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」という小説を思い出しました。
この小説は明治維新から日露戦争終結までの日本が、日本陸軍騎馬部隊の父と呼ばれる秋山好古、その弟であり日本海海戦でバルチック艦隊撃破に貢献した秋山真之、俳人の正岡子規の3人を中心に描かれています。日露戦争の細かな描写や当時の社会の姿が著者特有の歴史観で語られるのが魅力で、明治を生きた人々の息遣いが感じられる作品です。
何度も読み返すほど好きな作品ですが、どうしても読んでいて悶々とした気持ちになる部分があります。それは物語の中盤に当たる旅順要塞の攻略の場面です。日露戦争自体の勝敗に関わる重要な局面です。学者の間で評価は分かれるようですが、この戦いで日本軍を率いた乃木希典(まれすけ)は作中で愚将として描かれます。有効な策を有していないにもかかわらず、鉄壁と言われる要塞の最も守りの堅い部分への攻撃を繰り返させます。また、兵力を小出しに投入するので、部隊は砲撃を受けて次々と倒れていきます。無謀な策に固執する指揮官の下、何度も突撃が試みられ、死傷者が増えていく様は読んでいて胸が痛くなりました。
今月の28日に、9都道府県に出されている緊急事態宣言の6月20日までの延長が発表されました。「短期集中」として4月25日に出された宣言でしたが、5月7日に月末までの延長が決まり、今回の再延長となりました。4月末の宣言開始時点で予定通りに解除されるわけがないと思っていた人も多いのではないでしょうか。再延長のニュースを友人とともに見ていましたが、「やっぱりね」と諦め切った言葉が漏れました。
宣言を「小出し」にして延長や再発出を繰り返す対応が、首相の言葉への不信感を招き国民の協力姿勢を低下させている――。政府内でもそんな危惧が広がる。ある閣僚は「国民の不満が爆発している。納得が得られていない」。コロナ対応にあたる官僚は「もう宣言にも頼れない」と悲壮感を漂わせる。(29日付朝日新聞朝刊)
作中では「戦術にとって最も禁物なことの一つは兵力を小出しに使用することである」と述べられています。強大な敵を前に、少数で立ち向かっても潰されてしまうし、それを繰り返すほどに兵力も士気も低下してしまうからだと考えられます。コロナ禍を戦争と同一視するのは相応しくないのかもしれませんが、今の状況とよく似ているように感じてしまいます。昨日、近所の飲食店で話を聞いたところ、緊急事態宣言が出るとテイクアウトであっても客は減ってしまうということでした。緊急事態宣言は可能なら発出しない方が良いし、出すのであれば、初めから効果を確実に出せると確信できる期間に設定すべきだと思います。影響を受けるのは、ただでさえ苦しい状況にある飲食店などです。オリンピックの開催のために感染を少しでも抑え込もうとするあまり、宣言を小出しにする。その場凌ぎのやり方には疑問を感じます。
参考記事:
5月29日付 朝日新聞朝刊(東京14版)1面 「緊急事態、来月20日まで 9都道府県で延長 五輪開幕1ヶ月前」
5月29日付 朝日新聞朝刊(東京14版)2面(総合2)「(時時刻刻)小出し限界、抑え込めず 「延長は最後か」首相、明言避ける 緊急事態」
5月29日付 読売新聞朝刊(東京13版)1面 「『感染防止・接種の3週間』 緊急事態宣言延長」