「祖父母が持っていた畑をどうするか。貰い手などいないから、維持費がかかるだけで困っている。」そんな話を知人から小耳に挟んでいた私には、非常にタイムリーなニュースです。農業機械メーカーのクボタが、ITを駆使した効率的な農業の全国展開を始めることがわかりました。2019年までに各地の農家などと農業生産法人を15社設立し、東京ドーム約210個分に相当する1千ヘクタールの農地でコメや野菜を栽培します。このような企業の農業分野の参入は相次いでおり、日本の農業の生産性が向上されそうです。
そもそも、なぜ企業の農業分野参入が加速しているのでしょうか。理由は農業生産法人の存在にあります。法人形態をとる農業生産法人は、農地を所有することができます。銀行融資や税制の優遇措置を受けられるほか、会計処理の透明化など経営管理の強化につながるメリットがあります。このようなメリットから、農業生産法人数は2014年1月時点で1万4333あり、前年同時点よりも770増えました。また2009年には、農地を賃借すれば一般企業が農業を始められるようになり、民間企業の出資も相次いでいるようです。さらには、28日に成立した改正農地法により、企業の出資比率上限が従来の25%から50%まで緩和されることとなりました。農業に進出する企業へのハードルはますます低くなり、企業の農業進出はさらに加速しそうです。
企業の農業分野進出は、これからの日本の農業に新たな期待を抱かせます。例えば、先ほども登場したクボタは、IT技術の駆使により稲作技術を強みとしています。自社農場にはGPSを利用して正確な作業ができるトラクターや、稲刈りと同時にコメの水分やタンパク質を測定できるコンバインを投入。こうしたデータはクラウドサービスを通じて田んぼごとに管理し、翌年には肥料の散布量を自動調整する田植え機に生かし収穫量アップにつなげることができます。従来の農業は農家の経験に支えられている部分が大きいですが、大規模化がすすむ農業生産法人では数十人単位の従業員を雇っているため、従来のようにはいきません。農作業の手順を一人ずつスマートフォンに配信することで作業の間違いや遅れを減らし生産性を引き上げるということのようです。
IT技術により進化を遂げる気配を見せる日本の農業。TPP交渉によっては米の輸入も拡大され、日本農業はさらに厳しい立ち位置に立たされるかもしれません。そのとき、企業による農業参入は救世主となり得るのでしょうか。ひとつ筆者が気になることとすれば、農業管理を全てデータで行うのか、という点です。南北に長い日本列島は、地域ごとに様々な気候の特性があります。その地域ごとに伝承されてきた経験は、データだけでは測りきれないものではないでしょうか。クラウドサービスによって各従業員に配信されるデータの中に、今現在受け継ぐことのできる農家の経験を含むことで、不測の事態などにも対応できるかもしれません。せっかくの日本の農業における進化です。ITの中にも「日本らしさ」を求めることを期待します。
参考記事:30日付日本経済新聞朝刊(東京13版)1面「クボタ、全国でIT農業」