「休めない」頑張りすぎに注意

■コロナで謝罪 感染者の抱える苦悩

 筆者は先日、身内にコロナの陽性が出たため、濃厚接触者として14日間の自宅待機になりました。コロナに感染したことが判明してから、家族は終日電話の応対に追われていました。聞こえてくるのは謝罪の言葉の数々。「すみません。ご迷惑おかけして申し訳ありません」。高熱なのにひたすら頭を下げている姿を横から見ていました。

実際に感染をすると少なくとも10日は仕事に穴をあけてしまうことになりますし、もしかしたら他の人にうつしてしまっている可能性もあります。感染者がどうしようもない罪悪感を抱く気持ちは痛いほど分かります。しかし、どれだけ気を配っていても感染するリスクは全員にあります。それでも、「自業自得だ」と判断されてしまうのでしょうか。感染者とされる人の個人情報がネットに書き込まれたり、病院職員の子供が幼稚園に通うことを拒否されたりと、コロナ感染者やその関係者に対する差別や偏見は依然としてあります。本来は被害者であるはずの患者が、必要以上に自分を責め、精神的に追い込まれてしまうケースもあるようでした。

 

■会社や学校を休むこと=「悪」という考え

 感染が確認されると、仕事を休まなくてはいけません。職場の同僚たちは余分に働く必要が出てきます。周囲の人には負担をかけることになります。休むことは、人に迷惑をかける行為であるために、たとえそれが不可抗力であっても周りからは敬遠されるのです。

 筆者も以前は少しの頭痛やのどの痛みがあっても、実際に熱が出るまでは休まないようにしていました。体調不良は自己責任だという考え方が今も残っていたためです。アルバイトでは、休む場合は代わりの人を見つけるのが暗黙のルールとなっているところもあります。人に迷惑をかけないようにと無理をして出勤した結果、かえって症状が悪化して療養期間が長引いてしまったこともありました。

「休みたくても休めない」。筆者と同様に濃厚接触者となった中学生の妹は、2週間先に中間テストを控えています。学校を休むことで授業についていけなくなる不安をあらわにしました。とくに体育などの実技科目は、授業内における配点の割合が非常に高く、1回授業を欠席するだけで大幅に減点されてしまうそうです。やむを得ない事情で欠席をした人に対する救済措置が用意されていないのであれば、多少無理矢理にでも学校に行く生徒があらわれてもおかしくありません。

 

■休みやすい世の中に

 会社や学校を休むことに対する風当たりの厳しさは、感染者や濃厚接触者に限ったことではありません。出産・育児や介護、持病や障害のある人など様々な事情を抱えながら生活する人がいます。2017年の調査では、仕事を選ぶときに「子育て、介護等との両立がしやすいこと」を重視するとの回答が16~29歳では全体の7割にのぼりました。働き方についての考え方は少しずつ変わってきています。それぞれの事情に合った生活スタイルを確立するには、「休むことは良くない」という意識をまずは変えていかなければなりません。

 筆者は、心のどこかで「まさか自分が」と高を括ってしまっていたところがあったのかもしれません。コロナは決して他人事ではないということを身をもって痛感させられました。明日はわが身であることを肝に銘じ、皆さんも少しの異変を感じたら遠慮せずに休みましょう。

 

参考記事:

3日付 読売新聞オンライン 「[安心の設計 支え合い あしたへ]第4部 ワタシとシゴト<上>介護中でも 働きやすく」

4月30日付 読売新聞オンライン「病気・障害への差別・偏見をなくせ」